よみもの

□あなたの隣に
3ページ/10ページ


それにしても、こいつはちっとも変わってないな…。

イオは涙を拭いている瞬を見て感慨に浸る。

目の前の少年は、あれからまた激しい聖戦を戦い抜いたという。それなのに、自分が心配していた甘さや、優しさがちっとも抜けていない。せっかくの自分の忠告も無駄だったようだ。

しかし、それにどこかホッとしている自分がいる。海底神殿で見たあの優しい瞳を、もう一度見たいと焦がれていたからだ。その柔らかな頬に触れたいと…。



…そういえば触れてしまった。先程は勢いに任せて涙まで拭ってしまったが、いきなりあまり親しくない男(むしろ元敵)に触られて、アンドロメダは嫌に思わなかっただろうか。


大人びて見えても、所詮イオは思春期真っ只中の17歳。大胆な自分の行動と思いに焦りながら、瞬の表情を伺う。しかし見た所瞬は笑顔で、先程の行動を不審に思った様子も無い。イオは胸を撫で下ろした。




「そうだ、せっかくイオが日本に来たんだから、これから皆でどこかにいかない?」

瞬が、笑顔で提案する。しかし星矢が、その言葉にしまった、と言う顔をした。


「ごめん、瞬!俺、今日は美穂ちゃんに星の子学園の手伝い頼まれてるんだ」

勢いよく両手を顔の前で合わせた星矢が、その隙間から申し訳なさそうな表情でちらりと瞬を伺う。


その情けない表情に、瞬は思わずプッと。吹き出した。

「何だよ〜、笑うなよ。せっかく謝ってるのに」

「だって、星矢叱られる前の子供みたいなんだもん」

「ふんっ、怒って一番怖いのは瞬だからな!しっかり謝っておこうと思ったんだよ!」

「何それ!僕はそんなに怖くないよっ」


目の前の幼いやり取りに、イオは苦笑をもらす。戦いさえなければ、こいつらも、自分も、ただの少年だ。



「星の子学園って?学校か何かか?」

突然のイオの質問にじゃれあっていた二人が振り返る。

「ああ、孤児院なんだ。俺の出身地。今でもたまに手伝いに行ってるんだ」

星矢が何のてらいもなく言う。

「私も手伝い行ってもいいか?勿論迷惑でなければの話しだが」

イオの提案に二人が驚く。

「いいのか?何も面白いものなんかないぞ。むしろ、生意気なガキどもがたんまりいるぞ」

「いや、構わない」

特別な用事があった訳でもないので、イオは瞬達に顔を見せたらすぐに帰るつもりであった。しかし、目の前の二人の明るい姿を見ていると、もう少し彼等の、いや瞬の日常を見ていたい、と思った。もっと、瞬のいろいろな表情を見つけたい。


「まあ、お前がいいって言うなら構わないんだけどさ」

ほんとに後悔するなよ!と星矢が念を押した。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ