よみもの
□他人の不幸は蜜の味
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「ああ、次の王様は私だな。やはり日頃の行いが良いと神の御加護があるものだな。」
そう言って爽やかに髪をかき揚げたのは、アフロディーテであった。ちなみにこの聖域の神は、身体が未成年であるのに酒を飲みつつ、サガ相手にとぐろを巻いている。
「チッ」
王様に洩れたアイオリアがひそかに舌打ちをする。それにすかさずムウが「舌打ちの後にもニャンを付けなくてはダメですよ。」と嫌な突っ込みを入れていた。
「じゃあ私はこれにしよう。5番にはこの衣装を着用してもらう。」
バサリ、と広げられた衣装は、所謂メイド服であった。黒を貴重としたクラシックなデザインで、白いフリルとリボンの着いた清楚なエプロンがそのフォルムを引き立てている。しかしスカートの丈は思い切りミニであったが。
「ギャハ、アフロ、お前情け容赦ないな!まさかそれを出してくるとは!」
デスマスクが腹を抱える。
「フッ、伝家の宝刀を大事に仕舞っておいても勝機を逃すもの。ここは行かせてもらう。」
そんな二人にミロが率直な疑問を投げかける。
「なあ、お前達そんなマニアックなアイテムどこで手に入れてくるんだ?」
「いや、デスマスクと日本を訪れた時ある街でな。中々興味深かったぞ」
なぁ?と同意をもとめられたシュラが視線をさ迷わせ『ああ』と曖昧な返事をした。
「ま、そんな話は後だぜ。さあっ、5番は誰だっ!」
デスマスクが声を張り上げる。皆の期待に満ちた注目の中、怖ず怖ずと名乗り出た者がいた。
「あ、あの…僕みたいです…。」
手を挙げた瞬に、一同から「おおっ」とどよめきが起こった。今までのゲームは意外性を楽しんできたので、少女めいた瞬にメイド服と言う組み合わせはしっくりし過ぎて、ゲームとしては失敗したと言わざるを得ない。しかし、恐らく確実にメイド服を着こなすであろう瞬の姿を見るというのも、一同の興味を大いにそそった。
「じゃあこの衣装を着てて貰おうか。ちゃんとガーターも着けるのだぞ?着方が解らないなら私が手伝ってやってもいいが。」
そう言ってニヤリとするアフロディーテから、瞬は衣装を引ったくった。
「ちゃ、ちゃんと着れます!」
アイオリアまであんな恥ずかしいことをしたのだ。さっきまで笑っておいて、自分だけ逃げる訳にはいかない。
妙なところで男らしい瞬は悲壮な決意を固めると、赤面しながらも着替えのために隣の部屋に入って行った。
『あ〜〜もう!あいつは何やってるんだ!』
成り行きを見守っていたカノンは、歯痒い気持ちで瞬を見送った。
『あんな馬鹿な大人の冗談に正直に付き合わずとも良いものを。』
しかし、あの素直な性格の瞬に、上手いことを言ってその場を逃げ出すことなど出来るはずも無い。カノンは大きなため息をついた。