よみもの
□彼と彼との急接近!
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「ほら。」
カノンはマグカップに入れた紅茶をゴトリと卓上に置いた。来客もてなす想定のないこの部屋には、来客専用のティーセットも、上等な茶も置いてない。このマグカップも普段から自分で使っているものだ。
「あ、ありがとうございます。」
目の前には、瞬がちんまりと椅子に腰掛けている。普段から身体も態度デカい聖闘士達を相手にしているカノンは、瞬のその様子が何となく小動物を思わせ微笑ましさに目元を緩めると、自分も椅子を引き卓に着いた。
「で、何だ?その土産って。」
カノンは瞬が持ってきた包みに目を遣る。
「あ、これですね。これは日本のお菓子で『最中』って言うんです。ふ菓子の中に餡が入ってるんです。こっちでは多分売られてないから、珍しいかと思って。しかもこれはその中でもちょっと変わってるんですよ!最中の皮と餡が別々に入っていて、食べる前に自分で作るんです。中に入れるお餅もついてるんですよ。出来立ての方がおいしく食べてもらえると思って…」
瞬は嬉々としてこのお菓子の説明を始めた。
緊張が解れたのか、にこやかに話す瞬からは、無邪気な歳相応の可愛いらしさが感じられ、カノンの口元も思わず緩む。
「そういえば、ちゃんと説明しなきゃこのお菓子の食べ方解らなかったですよね。説明書日本語だし。」
さっきは慌ててすみません、と瞬は申し訳なさ双にカノンを見た。そんな感情がすぐ表に出る素直な瞬に、カノンはちょっとした悪戯心がわいてきた。
「じゃあ、お前が俺の分まで作ってくれよ。」
「はい、もちろんいいですよ。」
瞬は包みを解くと、いそいそと最中の製作にとりかかる。
「カノンは甘いもの平気ですか?餡はどれくらい入れます?」
「ああ、俺はこう見えても結構甘いものは好きなんだよ。デスマスクあたりには『似合わねぇ!』ってからかわれるけどな。」
その言葉に瞬は思わず吹き出してしまった。甘いものを頬張るカノン…。凄くカワイイかもしれない。
「…おい、お前まで笑うなよ。」
ちょっと不機嫌そうな声を出したカノンに、瞬は慌てて弁解する。
「いえ、変とかそんなんじゃないんですけど、カノンみたいな大人の人が甘いものが好きって、何だか可愛いと思って…」
…それは弁解にもなってないぞ、アンドロメダ。28歳にもなる男に可愛いなど。だいたい可愛いのはお前だろう。男のくせに肌は真っ白で、長い睫毛につぶらな瞳、ふわふわの猫っ毛に華奢な身体なんて、反則だろう。お前それでも本当に聖闘士か。
いつの間にか自分の思考が斜めに逸れていっていることに気付いていないカノンであった。