よみもの

□はじまりの日
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「?」

白羊宮に足を踏み入れた瞬はわずかな違和感を感じた。黄金聖闘士達がこの世を去り久しく無人のはずの宮に、気配のようなものを感じたからだ。気配と言っても実際に人がいると言うわけではない。先程まで誰かがいたような、人間の存在感の残滓のようなものを感じとったのだ。

「ねえ星矢、なんだか少し変じゃない?」
瞬は少女の様な繊細な眉をひそめた。
「なにがぁ?」
「この宮、いつもと雰囲気が違うような気がするんだ。いつものガランとした感じじゃなくて、さっきまでいた人の気配が残ってるような…」

星矢はう〜んと唸りながら辺りを見回した。

「別に変でもないだろ?今からみんな教皇の間に集合するんだ。氷河とか紫龍とか、さっきここを通ったんじゃないか?」

「そっか…、そうだよね」
気を取り直した二人は、雑談をしながら教皇の間を目指した。

しかし金牛宮、双子宮と歩みを進めるごとに、空気のざわつきというか、先程の違和感は増していくのであった。そして巨蟹宮に至るにあたって、とうとうその予感は的中するのである。

ぐにゃっ。
星矢は弾力があり、固くなく、かといってやわらかすぎない微妙な感触の物体を踏んだ。

「ぎゃ〜〜〜!!」
「な、なにこれ!」

顔、顔、顔。デスマスクが紫龍に倒されて以降きれいさっぱりと消えていたはずの不気味な死人の顔が、巨蟹宮の壁と言わず床と言わず、びっちりと生えていたのである。全く心の準備がなかった二人は堪らず悲鳴をあげた。特に瞬は12宮の戦い時はデスマスクが倒されてからの巨蟹宮通過だったので、この死人の顔を実際に見ること自体初めてであった。

先程から感じている何者かの気配。眼前に広がるうごめく死人の顔。あまりの恐怖感に、瞬のなかで何かの糸がぷつんと切れた。

「いやぁ〜〜っ!!」
盛大な悲鳴をあげながら、瞬は高速の速さで巨蟹宮を走り抜けた。突如走り出した相棒煽られ、半歩遅れて星矢も悲鳴をあげながら半ばパニック状態で瞬を追いかける。

高速移動の二人が残りの12宮を抜け教皇の間に着いたのは、わずか数秒後であったという。
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