よみもの(瞬受以外)

□災厄は、忘れたころにやってくる
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「あれ、空の上をアイオロスの小宇宙が飛んでいくよ?」

双児宮の一室で、カノンとソファに並んでDVD鑑賞をしていた瞬は、頭上の気配を感じ取り、天井を見上げた。
もちろろん、アイオロスの姿は見えない。


「…ああ、あれか。何だか懐かしいな…」

カノンは何処か遠い目をしながら、テレビ画面を見つめていた。

「懐かしいって?」

瞬はクッションを抱きしめながらカノンに聞く。

「前はな、聖域でよく見られた光景だったんだよ。あれが見られるのは、こけが平和になった証だ」

「ええ〜、良く解らないよ!」

瞬は隣でブーブー文句を言っている。
しかしカノンは、大人の汚い事情を、この純真無垢な瞬に話す気にはなれなかった。
あんな話しをしたら、瞬が汚れる。
しかも、自分も嫌なことを思い出してしまうではないか。

カノンの脳裏には、13年前のとある日常の1ページが蘇って来た。






「カノンッ!私を匿え!」

凄まじい勢いで小屋の扉を開けたのは、聖域で修業に明け暮れているはずの兄であった。
対象的に、自堕落生活をしているカノンは未だにベッドに寝転んだままであった。


「…うるせ〜な、今何時だと思ってるんだよ…」

「馬鹿かっ!もう昼の12時過ぎだっ!!」

五月蝿そうに目を擦るカノンに、サガはそう怒鳴ると、急に怯えたように壁に張り付く。

「お前、どうしたんだよ?」

不振に思って尋ねるカノンに、サガは口元に指を当て黙るように指示する。

その時である。



「サガ〜!どこにいるんだ?そろそろ組み手の時間だろ〜?修業に遅れるぞ〜!」

小屋の外で誰かがサガを探している。


「修業だってよ。お前行かなくていいのか?」

『ばかっ!喋るなっ!』
サガは必死な顔でカノンを止めた。が、遅かった。



「そこにいたのか、サガ!」

爽やかな声と共に扉が開かれ、そこには満面の笑みを浮かべたアイオロスが立っていた。

「ぎゃー!!でたーー!!」

サガは飛び上がって、ベッドからやっと半身を起こしたばかりのカノンの背後に隠れる。

アイオロスはベッドの上で震えるサガと、状況についていけずぼ〜っとしているカノンを見つけて真顔で呟いた。




「俺はいつの間にパラダイスに来てしまったのだろうか?サガが二人もいる。しかもベッドにスタンバイだと!?サガ、そんなにベッドで俺に組み手を教えて欲しいのか!こんなに望まれてそれに答えん奴は、男とは認めん!」


勢い良くベッドに飛び上がると、三人の体重に耐え兼ねたスプリングがギシギシ音を立てた。
すかさず、アイオロスは震えるサガの服をビリビリと勢い良く破く。

「ぎゃーー!やめんかっ!カノンッ!助けろっ!」

必死で抵抗するサガと、それに組み付くアイオロス。
カノンはこの状況にまだ付いていけず、呆気にとられて眺めるばかりであった。
そんなカノンにアイオロスは爽やかな笑顔を向けた。

「もう一人のサガ、お前もすぐに相手をしてやるからな。いい子で待ってなさい」

そうして、チュッと、カノンの唇に軽いキスを落とした。




「………………………!!!?ぐわぁぁぁぁ!!!」

しばらく硬直していたカノンだが、状況を理解して遂にキレた。




「ギャラクシアンエクスプロージョンッッ!!!」
「アナザーディメンションッ!!!」


流石双子と言うべきか。
同時に必殺技を放つと、アイオロスは星々とともに砕け散り、異次元空間へ飛ばされて行った。
後に発見された彼は、前後の記憶が全く無かったという。
そのおかげでカノンの存在の秘密は守られたのだった。




あのような災厄に常に見舞われていたサガには、心底同情する。
事実、当時のサガはストレスでヨレヨレであった。
もしかして、サガが黒くなったのにはそのことも関係していたのかもしれないと思い立ち、カノンはハハ…、と乾いた笑い声をあげた。




平和の証…だ、多分。


自分の横には可愛い瞬。
カノンは自分の幸せを噛み締めながら、教皇の間の方角に向かって、心の中で『サガ、ファイトだ!』とエールを送った。





災厄は、忘れた頃にやってくる。
これから聖域は、まだまだ賑やかになりそうであった。



    −END−
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