よみもの
□Girl's Talk
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アテナ神殿奥にある執務室。
今日は沙織とサガが朝から部屋に篭りきりで、書類の決裁にいそしんでいる。常時ギリシアにいるわけではない沙織なので、『この貴重な機会を逃す訳はいかない!』と意気込んだ文官から、これでもか!という大量の書類が届けられていた。
留守をしていた沙織のために、サガは手際よく書類の概要を整理し、説明していく。沙織もいくつかサガに質問をする以外手を止める事はなく、流れるように書類を処理していく。まだ少女の域を出ない沙織だが、その気品と知性により、その顔はずっと大人びて見えた。そして沙織の横に立ち、暗褐色の重厚な木製の机に乗る書類を、長い指で指し示し説明するサガのたたずまいは、溜息がでるほど美しかった。
すごいなぁ、二人とも。
書類整理のために手伝いに来ていた瞬だが、自分がこの場に居るのが場違いに感じるほど、二人の醸し出す世界は理知的で整然としており、美しかったた。しばらくはぼ〜っと見とれていたが、瞬はふと思い立つ。
自分が手伝えることはそう無いかもしれない。
瞬は二人の邪魔をしないようにこっそりと部屋を退出した。
「お疲れ様でした。今日の書類はここまでです。続きはまた明日にでも。」
サガは卓上の書類をトントンと揃えながら、沙織に解放を告げる。
「ありがとう、サガ。貴方がいなければこんなに早く終わらなかったわ。」
沙織は微笑むと、陽の差し込む窓の外を眺めた。
陽は既に高く昇っていたが、まだ正午になったばかり、という程である。最初は夕方にもつれ込むか、と予想していただけに、思いもかけずできた余暇が嬉しい。これも寝る間も惜しんで準備をしてくれたサガのお陰である。
「お疲れ様でした。そろそろだと思っていました。」
二人が振り向くと、盆にティーセットを乗せた瞬がやってくるのが見えた。瞬は手早くテーブルに茶器を並べる。
「あまり書類の方はお手伝い出来そうになかったから、台所を借りてお茶を入れてきました。」
そう言って照れ笑いした瞬に、二人の相好が崩れる。
「ありがとう、瞬。お前は気が利くな。私の弟もこれくらい可愛ければよかったものを。」
サガが心底残念そうな顔で嘆く。
「まあ、サガ。カノンに失礼ですよ。カノンだって充分可愛いのですよ。ね、瞬?」
「え!?」
突然水を向けられた瞬が動揺し、茶器がガシャン!と音をたてた。
「な、何でそんなことを僕に聞くんですか…」
「あら、だって瞬が一番良く知ってると思ったんですもの。」
沙織はフフ、と笑いを漏らした。
瞬は赤面しながら紅茶をそそぐ。沙織がそれ以上その話しは追求しなかったのがせめてもの救いだった。