よみもの
□午睡
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「サガ?」
教皇の執務室を訪れた瞬は、尋ね人の普段とは違う様子に控え目に声をかける。サガは机の上に突っ伏し、眠っているようだった。後の窓は少し開いており、午後の柔らかな光を含んだカーテンがひらひらと風に揺れている。瞬はこっそりサガに近付くと、間近で顔を眺めた。普段、こんなに接近することはまず無い。
可愛い…。
穏やかな陽の光に照らされて寝入っているサガの顔は、いつもの教皇然とした顔より随分幼く見えた。長い睫毛が瞼に濃い影を落としている。
ここで瞬はちょっと考え込んだ。アテナに言われて書類を持って来たのだが、このまま書類を置いていくのには多少心が痛む。あのサガがこのように眠りこけてしまうなど、余程疲れているのに違いない。しかし、このまま書類を持ち帰るわけにも行かない。
「そうだ。」
瞬は何か思い付いたように微笑んだ。
ふとサガが目を覚ます。
自分ともあろうものが、執務中にうっかり眠り込んでしまったらしい。最近少し疲れているようだ。ふと机上をみると、いつの間にか新しい書類が追加されている。
「やれやれ…」
硬く強張った首をゴキッと音を立てて回す。
ふと机上に何かが乗っているのに気がつく。それはガラスのコップに入れられた、可憐な一輪の花だった。コップの下には、『お疲れ様です』と書かれた小さなメモがはさまっている。メッセージを残した人物を思わせるように、その字はやわらかく、優しい。
首を回した姿勢のまましばらくそれを見つめると、サガは穏やかに微笑む。
「さあ、もう一頑張りするか。」
サガは再び書類が山積みの机に向き直る。不思議なことに、先程までの疲れは嘘の様に消えていた。
柔らかな午後の光は、変わらずに室内を穏やかに照らしていた。
−END−