よみもの
□彼と彼との急接近!
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聖域の空は今日も抜けるように青かった。
聖戦が終わり、全ての黄金聖闘士達が帰還した十二宮には、多少の変化が起こっていた。
まず、新生聖域の教皇の座に双子座のサガが就いたのである。前教皇であるシオンが突然の引退宣言。
「243年も老体に鞭打って教皇をつとめてきたのだ。そろそろ引退させてもらうぞ!」
そう言い放ち、彼は親友の童虎を伴い、世界名湯巡りに旅発ってしまった。
残された黄金聖闘士の中で誰が教皇に相応しいか、という議論が交わされたが、満場一致でサガに決定した。悪の人格すら無ければ、13年前であっても最も教皇に相応しい男、との評判だったのだから、これは順当な結果と言えた。
そして空席になった双子座の黄金聖闘士の方だが、これもやはりカノンが相応しかろう、ということで異義を申し立てる隙さえ無く決定した。
そんなわけで、サガは教皇の間に、カノンは双児宮に新しく居を構えることになったのだった。
「はぁぁぁ〜…」
カノンは双児宮の自室で盛大にため息をついた。
正式に双子座の黄金聖闘士に任命されてからというものの、カノンは毎日退屈な日々を送っていた。何故なら、アテナのおわす聖域を守護する最高位の聖闘士として、常に聖域に待機することを求められていたからである。以前とは違い、ジャミールに引きこもっていたムウでさえ十二宮に詰めている。もちろん、聖域を出て街に行くことは出来るし、申請さえすればそれなりの休暇も貰えるだろう。しかし、「許可」が必要な自由に、カノンはいまいち満足できないのであった。
「誤算だったぜ…。まさか黄金聖闘士になってこんなことに悩む羽目になるとはな…。」
もう聖闘士やめちまおっかな。
不謹慎な考えが頭に浮かんだが、以前ミロのスカーレットニードルを14発も受けながらアテナに忠誠を誓ってしまったため、いまさら黄金聖闘士を辞めたいなどと言うのはプライドが許さず、一人悶々とするカノンであった。
トントン。
その時、ドアを控え目にノックする音が聞こえた。その聞き慣れないノック音にカノンは首を傾げた。元双児宮に住まっていたサガなら、声は掛けるだろうがノックなどしないだろう。たまに一緒に街に飲みに行くデスマスクも、やはりノックなどせず「おい、カノン。飲みに行くぞ!付き合えや。」とズカズカと部屋に入ってくる。他の聖闘士にしても、このような控え目なノックをするほど繊細な人物は思い浮かばなかった。
一体誰だ?
不審に思いながらも、とりあえず扉を開ける。
「こ、こんにちはっ、カノン!」
目線を多少下に向けると、そこには、多少はにかんだ笑顔の、アンドロメダ瞬がいた。