よみもの

□はじまりの日
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聖戦が終了した。

ハーデス率いる冥闘士との熾烈な争いを戦い抜いた聖闘士達は、崩壊しつつある冥界より、アテナの力により無事地上に帰還することができた。ただし無事とは言っても地上に生還できたのは、星矢以下青銅聖闘士の5名だけであった。聖域の全ての黄金聖闘士達、白銀聖闘士のオルフェ。多くの仲間達の尊い命は無残にも散ってしまったのだった。

ギリシア聖域。
今日この場所では、アテナの取り計らいにより、聖域に残る全ての人々によってこのたびの聖戦により命を散らした聖闘士達の合同慰霊祭が執り行われていた。式典は粛々と進められ、昼過ぎには大勢集まっていた人々も三々五々と散会していった。

式典から解放された瞬と星矢は、墓地を見下ろす小高い丘の上に立っていた。眼下にはいくつもの墓標が並んでいる。全て志半ばに命を落とした聖闘士達の墓である。

「ねえ星矢…」
丘を撫でていく風に髪を遊ばせながら、瞬は傍らに立つ星矢に向かってつぶやいた。「聖闘士達は安らかに眠っているのかな…」

石に名前を刻んだだけの簡素なな墓標の群れを眺めながら瞬はそう星矢に問い掛けた。星矢はなぜ瞬がそのような問いかけをしたのか解るような気がした。なぜなら、この真新しい墓標の下に、遺体は納められていないからだ。今回の激しい聖戦の犠牲者達の遺体は、崩れゆく冥界とともに消え去ってしまった。あの状態で遺体を運び出すことなど不可能だった。しかし、瞬は聖闘士達の身体を地上に連れて帰ってやれなかったことを深く悔いているのだ。

「…大丈夫だって!」
星矢はことさら明るく返事をした。
「あいつらはさ、アテナと地上の平和のために全力を尽くしたんだ。それで地上は平和になった。自分の信念を貫き通したんだ。思い残すことは無いはずさ。瞬が同じ立場でもそう思うだろ?」

瞬はハーデスに乗り移られた時、自らの身体ごとハーデスを葬り去ることを望んだ。地上の人々の平和のために。その瞬になら、命を散らした聖闘士達の気持ちはだれよりもよく理解できるはずだ。
「そうだね…」瞬はわずかに微笑みながらそう返した。
「それにあいつらの魂はきっと懐かしい故郷のこの聖域に戻ってきてるはずさ。」

二人は風に吹かれながら、眼下の風景を見下ろした。どこまでも続く澄んだ青い空。ギリシアの日差しに輝く白い岩肌。遠くには紺碧の海と、海岸にはオレンジの屋根の家々が連なっている。穏やかな午後の日。この幸せな風景の中に、亡き聖闘士達の魂が安いでいることを、二人は心から望んだ。

「それに何たって冥界は崩壊しちまったんだから、本当に魂が現世に迷い出て来てるかもしれないぞ。このまま白羊宮あたりに行ったら、ムウが茶でも飲んでたりして」

「もうっ、星矢ったらふざけないでよっ」
星矢の物言いに思わず吹き出してしまった瞬は、先程までとはうってかわって明るい表情になった。
「さ、じゃあそろそろ教皇の間に行こううか。沙織さんがみんなに話があるんだって」
「了解!」

二人は一度だけ後ろを振り返ると、教皇の間に向けて歩き出した。
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