よみもの(瞬受以外)

□災厄は、忘れたころにやってくる
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サガは、教皇の執務室で書類の雪崩に苦しめられていた。


「…ううう、何故こんなに書類が減らんのだ…」


弱り切って机に突っ伏すサガの端正な目元には、濃いクマが浮き出てていた。

サガの乱と、それに続く二度の聖戦。
聖闘士の数は激減し、それに反比例して事後処理は膨大な量に膨れ上がった。
残った者で必死に処理しているのだが、悲しいかな、脳みそ筋肉族が多数を占めるこの聖域では、有能な官吏は極めて少ない。


こうなったら、ムウかカミュあたりに手伝いを頼むしかない。
後で何を要求されるか分かったものではないが背に腹は代えられない。

サガが悲壮な決意を固めた時であった。



ガチャリ。

突然のドアの開閉音に、サガは机から顔をあげる。
そこには、トレーニング帰りなのか、首にタオルをかけて汗を拭うアイオロスの姿があった。


「サガ。随分お疲れみたいだな」

さわやかな笑顔でアイオロスが部屋を覗く。


「厭味か。見たら解るだろう。私は取り込み中だ。手伝う気がないならさっさと出ていけ」


そうは言ったものの、サガはアイオロスの手伝いなど全く期待していなかった。
何故ならあのミロと一、二を争う脳筋族のアイオリアの兄だからだ。

それに、13年前の出来事のせいで、彼と一緒に過ごすのは今だに気まずい。
サガは片手で彼を追い払う仕草をすると、再び書類に向かった。



「何だ、書類を整理しているのか。よし、俺が手伝ってやろう」

「は?お前がか?」


乗り気で執務室に入ってくるアイオロスに、サガは怪訝な顔を向ける。
彼は見かけに反してこのような書類整理が得意なのだろうか?
13年前はそのような仕事をする機会が無かったため解らなかったが。



「まあ、お前がそこまで言うなら手伝ってもらってもよいが」

今は猫の手でも借りたいサガだった。



「よし、任せろ!」

自信満々に言い放ったアイオロスは、部屋に入ると、何故かサガの肩に両手を乗せた。


「…何をしている?アイオロス」

サガはアイオロスに冷たい目線を向ける。

「仕事が進まないのは疲れてるのがいけないんだ。俺がマッサージでお前の疲れをほぐしてやる」

サガの視線をものともせず、アイオロスはサガの肩を揉み始める。

「ちょっ…、やめないか!そんなことは頼んでおらん!」

アイオロスの手を掴み止めようとするサガに、彼はあっけらかんと答える。

「このマッサージは効くんだぞ。俺も昔トレーニングで疲れたアイオリアによくしてやっていた。まあ、それも随分昔の話しだが…」

少ししんみりしながら言われてしまった。
サガは彼と弟のアイオリアを引き離してしまったことの責任は感じていたので、肩身の狭さからぐっと言葉に詰まると、大人しくマッサージを受けることにした。




しかし。
「おい…、ちょっ…、お前!」
「何だ?」

アイオロスは笑顔で答える。
「何だじゃない!何だこの手はぁ〜!」


サガはアイオロスの手首を掴みあげると、壁に向かって思いっきり投げた。
ごす、と鈍い音がして、アイオロスがずるずると壁からずり落ちる。

「酷いな、何をするんだ!」

アイオロスが頭をさすりながら涙目で抗議する。


「被害者面をするなっ、泣きそうなのは私だっ!マッサージなどといいながら何処を触っている!」


あろうことに、アイオロスは口に出すのもおぞましい、あんなところやこんなところまで嫌らしい手つきで触ってきたのだ。
こんなマッサージを弟にしていたというのなら、大問題だ。


「それは俺のせいじゃない。お前が悪いんだ」

立ち上がったアイオロスが、真剣な顔で詰め寄る。

「私が?何故だ」

その真剣な顔に、思わずサガがたじろぐ。



「お前がそんな禁欲的な法衣に身を包み、疲れた様子で力無く机にしな垂れかかっていたら、むしゃぶりつきたくなるのが男の性だ!!」
アイオロスは男らしい顔で力説した。



「ギャラクシアンエクスプロージョンッ!!!!!!」
「ぎゃぁぁあ〜」



アイオロスの悲鳴と小宇宙が窓の外遠くへ消えていく。
肩で息をしながら、サガばようやく思い出した。
13年前、アイオロスを葬ってしまおうと思った理由の一端を。
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