よみもの
□正しい男男交際のすすめ
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一輝はダンッとテーブルを拳で叩くと、ぐったりとテーブルに突っ伏すサガに鋭い視線を向ける。
「貴様、監督不行き届きだぞ!弟はちゃんと躾けておけ!」
監督と言っても既にカノンはいい大人なんだがな…。
私と同じ歳だし。
ああ、でも躾は失敗したかもな。スニオンにずっと閉じ込めてたから。
サガは突っ伏したままハハ、と乾いた笑いを漏らした。
半ば投げやりになっているサガを庇ってアイオロスが口を挟む。
「まあまあ、一輝も瞬が可愛くて手放せないのは解るがな。しかし、第一に考えてやらないといけないのは本人の幸せだろう?やみくもに虫から遠ざければいいってものじゃない」
「しかしっ!瞬はたぶらかされているに違いないのだ!普通に考えて、あの純真無垢な瞬が、あんな不良と付き合う訳が無い!」
「ダメな夫にしっかり者の妻。案外ぴったりかもしれないぞ〜」
アイオロスは爽やかな笑顔でずばりと失礼なことを言い放った。
酷い言われようのカノンが哀れになったのか、サガも援護する。
「まあ、あいつは躾のなってない馬鹿だが、あれでなかなか可愛い所もあるのだ。瞬もそこに惹かれたのでは…?騙したりは…していないと思うぞ…?(多分)」
二人の援護射撃に、今度は一輝が黙った。
一輝とて、カノンを知らぬ訳では無い。
冥界での戦いでカノンの人柄を間近で感じ、彼がそれなりの男であるのは理解していた。
ただ、それはそれ、これはこれ。
自分の可愛い瞬が他の男に取られるなど我慢出来ないのであった。
幼少のみぎりの瞬の姿が脳裏に浮かぶ。
『ぼくね、にいたんとず〜っといっしょにいるの。だって、にいたんのこと、だいすきだもん!』
キラキラ輝く天使の笑顔が走馬灯の様に思い出される。
瞬よ…、お前はあの誓いを忘れてしまったというのか…?
立ったまま男泣きに泣く一輝を、サガとアイオロスは生暖かい目で見守る。
「…よかろう、それでは俺が直々に、二人に適切な男女交際というものを指導してやろうではないか!」
…いや、男女じゃないし。
サガは心の中の突っ込みを敢えて口には出さなかった。
「へーっくしょんっ!」
「あれ、カノン風邪ひいたの?」
双児宮の自室で派手なくしゃみをしたカノンを、瞬が心配して覗き込む。
ぐずぐすと鼻を擦っていたカノンだが、覗き込む可愛らしい顔にふと悪戯心を起こしたのか、瞬の頬を両手で捕らえ顔を近づける。
「風邪だったら、瞬が看病してくれるのか?ん?」
「も、もうっ!ふざけないでよっ」
顔を朱に染めた瞬が、カノンから逃れようとじたばたと暴れる。
「治してくれるんだろ?」
不意に耳元でカノンのハスキーボイスに囁かれ、びくん、と瞬の動きが止まる。
「風邪は感染したら、治るらしいからな。お前に貰ってもらうか」
カノンは瞬にゆっくりと顔を近付ける。
瞬はカノンに魅入られたように動くことができない。
だんだんと近付いてくる青い瞳に引き込まれるように、瞬は静かに瞳を閉じた。
ドカーン!バキバキ!!
メキッ!
突如、ものすごい轟音と共に双児宮の天井に大穴があいた。
「おわっ!」
瞬といい感じになろうとしていたカノンも、思わず瞬を腕の中に庇い、飛びのく。
もうもうと立ち込める粉塵が少しずつ薄れていき、瓦礫の中央に立つ人影が顕になってくる。
「フェニックス!!?」
「に、兄さん!!?」
果たして瓦礫の間に仁王立ちしていたのは、恐ろしく攻撃的な小宇宙を纏ったフェニックス一輝であった。