ペダルSS

□タオルケット
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しばしの休みに坂道は荒北の住む寮にやってきた。それというのも大会が終わってからほんの少し二人の距離は縮まって、ついに荒北の住む寮に行くことになったのだ。
誘ったのは意外にも坂道のほうからだったのだが
慌てた荒北が「金もねぇし家来ればいんじゃね?」と、言ってしまったからである。
そのためわざわざおおきなリュックを背負って箱根までやってきたのだ。

「お、おう小野田チャン」
「荒北さんっお久し振りです!」

そんな久々でもねぇけどなァ
等喋りながらバレないように裏口から入ったつもりだった
「うおっ!!!眼鏡くんではないか!!!」
最も見つかってはいけない人物に見つかってしまった。どうやら裏口近くの駐輪所から帰ってきたところの様子だった。
「巻ちゃんは一緒ではないのか!?」

「え、は、はい・・・今回は僕ひとりで・・・」

「なら用はないな!サラバだ!」
ビシッといつものポーズを決めすたこらと
走っていった。

「な、なんだったんでしょう・・・」

「わかんね」

「とりあえず誰にも言わないようにメールしとくわ、部屋行こうゼ」

「は、はひ・・・」
部屋に行こうと言われ坂道の胸は突然ドキドキしはじめた。
(お、おかしいよ、なんでドキドキしてるの!?不整脈!?)
不整脈の心配をしながら荒北の部屋へあがる。
そこはどこか男臭い、でもきちんと整頓された部屋であった。
ヤンキー時代の名残かYAZAWAのポスターが一際異彩をはなっていた以外は普通だという感想を抱いた。
ベッドを見るまでは。

(枕が二つある・・・)

そう、荒北はモテるのだ。
まさか、まさか・・・と頭を抱えながら、そんな頭を抱える自分をおかしいとも思った。
他校の先輩がどれだけ女を連れ込もうが勝手なのである。

チラリと荒北を見ると携帯をいじっていた。
自分がここに来たことをばらさないように東堂にメールをしているのだろう。
まさか自分がここにいるのに女性にメールをしてるなんて・・・!
ぶるぶるっと頭をふった坂道に「なぁにしてんの」と荒北が寄ってくる。

「なんか、なんだか、僕、変で」
「な、どうしたノ?熱でもあるのかァ?」
こつんとおでこを寄せてくる荒北に坂道はボッと顔が赤くなってしまう。

「あわわわわわ」
ズリズリと荒北から顔を背け後退していく。
その様子を不思議がりながらも、
「体調悪いならベッド貸してやるから」

と、坂道をお姫様抱っこして自分のベッドに横にならせた。
そのとき坂道はパニックで気づかなかったのだが枕のひとつは柔らかなタオルケットに包まれていた。
赤面した顔を隠そうとタオルケットの枕に顔をうずめているうちに疲れが出たのか眠りについてしまった。



カチカチ、カチ、

時計の音で坂道が目を覚ます。眼鏡を荒北がとっておいてくれたのか視界がとても悪い。
「荒北さ・・・」
ギシリとベッドをゆらし起き上がろうとすると、
すぐに大きな手が伸びてきてまたベッドに横にされてしまった。
「小野田チャン・・・」

「は、はひっ」

隣で荒北が寝ている、その事実に気づいたとき坂道は驚きすぎて本当に不整脈になったのではないかと思った。

「眼鏡、返してほしい?」
「あ、は、はい・・・」
それが無いと何も見えないので・・・
言いかけると無言で唇に何かが押し当てられた。
ちゅ、と音をたてて離れていく。

「はい、眼鏡」
「・・・」
ぽかん、と眼鏡を渡されたままかけることもせず大きな目をぱちくりさせる。
そして唇を触り、

「ぎゃあああああああ」

と小さく叫んだ。

「あ、荒北さん気持ち悪くなかったですか?」
「彼女さんと間違えたんですよね?」
「ぼ、ぼく唇がさがさだから・・・」

やつぎはやに困惑の言葉を並べていると、荒北が眼鏡をきちんとかけさせて、

「俺、小野田チャンのこと好きだわ」

と目を見て告白した。

「今回も小野田チャンが来るって舞い上がって枕も買っちまって」

「小野田チャンこういうの好きかなぁってタオルケットなんて柄にもないもん選んじまったし」


「気持ち悪い、よな・・・」

それまで呆然としていた坂道がハッとわれに返りブンブンと横に首を振った。

「ぼ、ぼくも荒北さんのこと好きです!!」

「来たときは分かんなかったけど、たくさんドキドキして、気付きました・・・」

タオルケット生地カバーの枕が自分のためのものだということも知って安心した。

二人は向かい合いもう一度キスをしてそのまま手をつなぎ眠りについた。




翌日

「うちの坂道がお世話になりまして」
と巻島が来たのは言うまでもないお話。

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