SS
□うみ
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その日は少し曇った肌寒い日で、2人の通っていた高校の卒業式だった。
ツナは、卒業の後イタリアに渡ることが決まっていた。決定事項なのだ。誰が何を言おうがどうにもならないことだ。
だけれどツナは不安で仕方なかった。
薄暗い寒い1人の夜には泣いた。
卒業式の日、その晴れ舞台の会場である体育館にツナの姿はなかった。
「寒い・・・」
でもよっぽど卒業式に出るよりも、ここのほうが今の自分には寒くない。
そこは並盛から離れた、電車で二時間もかかる海だった。
春もはじめのまだ寒い海に1人で来た。
逃げてきたのだ。
「俺、なにしてるんだろう・・・」
逃げれるわけもないのに、と自分で自分を笑う。
リボーンからも、ボンゴレからも、全てから自分はもう逃げれないのだ。
分かっていたのに自分は逃げた。
心が感情でいっぱいになってしまい、溺れてしまいそうで怖くなったのだ。
こういうときに君がいてくれればいいのに・・・
堤防に立ち尽くした。
波の音だけが聞こえる。
「10代目」
波の音が途切れて、彼の、獄寺の声が耳をさらった。
「こんなところにいたんですね」
まるでなにごとも無いようにさらりと、いつものようにその人はニカッと笑って言った。
こんな、遠く離れた町の海岸に、どうして、ツナの瞳から涙が溢れた。
「俺と逃げましょう」
ツナの手をとり獄寺は言った。
誰よりも、彼から言って欲しかった言葉をさらりと言ってしまったのだ。
「・・・・・・・っ!」
溢れた涙を片手で押えて、嗚咽を堪えた波間に消え入りそうな小さな声でツナは聞いた。
「いいの?」
自分と逃げることが、どれだけの罪なのか、彼は分かっている。彼の夢も消えてしまう。
築きあげてきたものや仲間も全て失うのだ。
それなのに彼はツナの濡れた頬をカーディガンの袖でぬぐって微笑んだ。
「もう泣かないで下さい」
(俺はさっきあなたをみつけたときに運命だと悟ったのです)
生涯をかけて愛する人の悲しみを取っ払ってしまいたい、幸せな笑みを取り戻したい。
それに、あなたのためにボンゴレを捨てることなんてなにも厭わない。
あなたを愛しているのだから。