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□君の声。
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「エース、今すごく優しい。自分でわかってるのかなぁ。」
「?」
「ルフィを見る目。」
「…はぁ!?」
「ぁ…気づいてないんだ。俺、けっこう前から思ってたんだけど?」
「…思ってたって…」
昼下がりの日差しの中、三人で川に来ていた。
はしゃぐルフィを遠くに見ながら、俺たち二人は川魚を狙って糸を垂らしていたところだ。
サボはたまに突拍子もないことを言う。
でもそれはルフィの本当に訳がわからなくて突拍子もない言葉と同じじゃなくて。
俺は馬鹿だから理解するのに時間がかかる。もしくはサボが答えをくれるまで待つしかない。
「わかんねぇ、どういう意味だ?でも俺はルフィを甘やかしてるつもりなんて全くねぇけど。あんなんでも海賊になりてぇって言うんだ。甘ったれは早死にするだけだからな。」
『うんうん』と相づちを打つまっすぐな瞳。
『何が優しい目だ』と思う。
俺に言わせりゃサボのその目の方が温いくらい優しい。
少しふてくされた俺にサボがまたニコリと笑う。
「俺さ、…今は、自分の事で手いっぱいだけど。本当はルフィを守れるくらい強くなりたい。」
「…」
俺の釣り竿が僅かにしなったが、気づかないふりをする。
「でも俺一人じゃ無理なんだ。だから、強くて信頼もしてるエースが一緒になってあいつの事守ってくれてるの、嬉しいんだ。」
「…当たり前だろ。最初にあいつ押し付けられたの俺なんだぜ。」
「嫌だったけど。」と続けると、またサボは笑った。
それを見つけてルフィが首を傾げるが、すぐに足元の魚に思考が移ったようだ。あまり遠くに行くなという言いつけも守らず、本能のままに追っていく。
「あっ…ったくあの馬鹿…サボ!」
持っていた竿を預けて、座っていた岩から軽く飛び降りた。
バシャンッと派手に水しぶきが飛び、魚が足元をするりと抜けていく。
「…。」
2、3歩進んで立ち止まる。
「ん…どした?」
「だったら…絶対、あいつの事守ろう。」
ルフィはもう見えない。
それで良かったと思う。
きっと今情けない顔をしてるんだろうな、俺。
「…エース。」
いつからか。
夢意外何もなかった俺に、守りたいものができた
。
急に降って現れたようなルフィの存在は小さく、弱々しく見えたけど、それでも精一杯俺にしがみついて泣いたり笑ったりする。
夢にはまだ触れないけど、手を伸ばせばいつでも触れられる弟の存在はひどく俺を安心させた。
守らなければ、と思った。
サボも同じ気持ちだと知って、やっぱり俺達は兄弟なんだと、恥ずかしいくらい熱い想いが胸を焼いた。
「あいつが笑ってれば、それは俺らが繋がってる証になる。これは兄弟の盃とは別。………俺と、お前の絆!」
もう走り出してしまっていて、サボがどんな顔をしているかはわからない。
でも見なくてもわかる。
サボの穏やかな顔色は変わらない。
「なぁエース!!」
『…怒るかもしれないけど本当は俺、エースも守れるくらい強くなりたいんだ!!』
忘れられないんだ。
お前の一つ一つの言葉を。
剥がれねぇんだ耳の奥から。