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□あの日 始まった苦悩
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果てのない夜の海を照らす松明。
煙草を燻らすために何気なく部下が着けたマッチ。
今、こうやって本を読む為に灯した蝋燭。
あいつの『能力』は俺達の生活の中の何処にだって存在する。
あの赤い色を見るたびに。
あいつの笑った顔を。
あの日
『これを放っておいて
殺されたサッチの魂はどこへ行くんだ!!!』
全てを焼き尽くすような眼光。
自分達の制止を振り切り単身で海へと消えた背中。
エースがティーチを追うために船を出てからかなりの月日が過ぎようとしていた。
太陽もまだ姿を現さない早い時間からの情報集めだったが、いつの間にか赤く染まったそれにマルコは小さく舌打ちをする。
目指した自分の船はもう近い。
ずいぶん大きな街が見えたから立ち寄ったが、結果は期待外れなものだった。
エースの足取りが途絶えて今日で3日目。何処の街、どんなに小さな島にだって、アイツがいた形跡は残っていたのに。
「…」
これから深い闇のように暗くなる海を、一人で過ごすエースの事を考える。
何度も思う。
やはりあの日、海に突き落としてでも止めるべきだったのかもしれない。
モビー・ディックの真上で飛行を止め、青い炎を解き甲板に降り立つ。
既に集まっていた隊長達が一斉に視線をマルコに向けた。
「…どうだった?」
ジョズが軽く手を挙げてマルコを労う。
「…」
マルコが首を横に振ると、皆溜め息を圧し殺したようだった。
「…情報が、ねぇな。…あいつ頭悪い癖に勘だけはいいんだ。」
「らしくないね。元来の派手好き押し殺してさ。」
「慎重に行動してるんだろう。…ティーチに気づかれないように。」
「…ティーチ?…いやぁ、そりゃ『俺達』の間違いだろうがよい。」
マルコの一言に、その場にいる全員が息を飲んだ。
最初はあの鉄砲玉のような男に、そんな器用な真似ができるわけがないと思っていた。
しかしここ数日、確実に煙にまかれている。
法外な高い懸賞金、何よりあの背中が、エースに繋がる情報の全てを生み出す。
今までもそれを頼りに足取りを掴んでいたのに。
それがなくなった。いや、なくされたと言うべきか。
「エースの確かな意思によって…だよぃ」吐き捨てるように言うマルコの声は、波のの音にかき消されることなく響いた。