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□二人、時々独り
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『…そうだ、ルフィ…』
雲が流れていくのを見ながら、ぼんやりと今日が静かな理由を考えていた。
今朝は珍しく『今日はどこ行くんだ!』と腰に巻き付いてくるルフィの腕がなかった。
感情を押さえる事を知らないルフィは、それはもう力強く、痛い程俺に巻きつく。
俺に本体は確認できなくても、ルフィはいきなりその伸縮自在の腕を絡めてくるものだから、転びそうになる事はよくあった。
何度も注意しようと思ったが、目をキラキラさせてそう言われては、無下に扱えない。
『…ぁあ。』
思い出して、鼻の頭を押さえた。
俺の歩く速度が思っていたより早かったのだろう。
左足首だけをガッチリ捕まれて、顔面強打したのが昨日の、まだ真新しい記憶だ。
眠気半分、寝床からのろのろと起き上がった直後で、避ける事も受け身をとる事もできなかった。
派手に床とキスをしたわけだが、俺はいつものようにルフィを怒鳴りつける気にはどうゆう訳かならなかったから、少し静かな声でたしなめた。
『兄ちゃんはすげぇ痛かったぞ。』という事と『腰から下巻きつくの禁止。』
この二点だったと思う。
が、何せ昨日の、しかも朝っぱらの出来事なのであまりよく覚えていない。
でもなんとなく、ルフィはそれからやけに静かになって、そういえば俺が喋ってる最中もきょとんとして途中で口を挟んだりはしなかった。
『怒鳴るよりいいかもしれない』と確か俺も思った。
日差しは強くもなく、太陽は時々雲隠れする。
頬を撫でる風が心地よくて、俺はついここが高い木の上だという事も忘れ、うとうとしてしまう。
「眠ぃ…」
大きな幹に寄りかかって、ゆっくりと目を閉じる。
ルフィが来てからこんな風に一人になるのは久しぶりだった。
毎日毎日、よく飽きないものだと思うが、ルフィは俺の側をそれこそ生まれたての雛鳥のように離れようとしなかった。
最初は『なんかの拍子に死んじまえばいい。』とさえ思っていたが、今は俺もルフィが隣にいることに慣れてきてしまっていて。
いざ側にいないとなると少し淋しいかもしれない。
瞼を閉じたまま口元だけで笑う。
「まぁ、飯もいつも通り食ってたし…でけぇ肉でも土産にすれば。」
欠伸を一つ。
「…機嫌直すだろ。」
大きな目をおもいっきり細めて、肉を頬張る弟の姿がよぎったのが最後。
俺はそのまま意識を手放した。