main

□二人、時々独り
3ページ/4ページ



瞬間よぎったのは、昨日の朝。



「エース、いなくならないでくれ!!…おれ…っ」








「…っ馬鹿野郎!!!」



何を不安になってるんだ。
なんで俺がいなくなったりするんだ。
ケンカで負けたことないやつにどうして殺されるんだ。
だいたいそれは例えバナシで。
お前は昨日から何を考えて……







…駄目だ、まとまらない。



「…そこで、待て!…わかったな!!」


ルフィは素直に頷かなかった。
木から俺が身を乗り出したのを見るとニ、三歩後ずさり、急にもと来た道を走り出した。

「っ…ルフィ、てめぇえっ…!」
俺がまた怒ったんだと思ってやがる。


いや、間違っちゃいない。
俺は怒っている。それはもう猛烈に。


着地地点から一気に速度を上げようとした時、視界の隅に鮮やかな色を見た。
地面に落ちた蝶の、その羽に絡まる銀色の糸。










「馬鹿野郎…っ」







『エース、じゃあ、すげー怖いのか?』

『…ん?』

『おれ、見たことあるぞ。クモは虫をぐるぐるにして殺しちまうんだ。』








『それって、すげぇ怖いんじゃねぇか。』








ルフィの足が遅いわけじゃない。
でも俺が追い付く事は容易い。




目が、小さな背中を捉える。
伸ばした指先が肩に触れた。





もう

少し!



「…ルフィ…ツ…!…ぃいっ…!!?」








『ぎゃああぁーっ…!』
掴んだ瞬間、盛大な音を立てて二人で転がる。























「…お前が蜘蛛で、俺が蝶か。…儚いなぁ、俺は。」


寝転んだままゼェゼェと息を吐くルフィの顔を覗き込んだ。

「…エー…スっ…はぁっ…」

涙の跡が痛々しくて乱暴に拭う。

「エースっ…」
伸ばされた腕を掴み、抱き寄せる。

「自分から逃げたくせに。」
何笑ってんだよ、と小突くと胸元から笑い声が聞こえた。





すっかり太陽は傾いていた。
ずいぶん長い間寝ていたんだな、と思った。

そして、その長い間ずっとこいつは俺を探していたんだろう。




「…悪かったな。ルフィにうまい肉土産にしようと思ってたんだけど、寝過ごしちまった。」
背中にぶら下がる麦わら帽子についた土を払ってやる。

「そうか!でもいいんだ!」
さっきの泣き虫が何処へやら、いつもの
顔で笑う。


「帰ろうエース!」

「あぁ。」











怖いよ、ルフィ。





お前がいなくなったらどうしようと思うよ。



お前を守る俺がいなくなったらどうしよう、とも思うよ。




俺は兄貴で、お前は弟だから。
役割は当然違うだろうけど。




同じように不安になる事があるのなら、それはそれで、嬉しかったりするんだ。

またお前を混乱させたら困るから(俺が)言わないけど。

「…また、明日な。」

「おう!」

手を繋いで帰ろう。


俺たちの家へ。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ