胡蝶と桔梗は舞い踊る
□あるアカく歪んだ恋の物語
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ピチャリッ―
跳ねる。
伝う。
流れる。
赤あか紅朱緋アカ―…
それはまるでこの世界の全てのように。
けれどそれはこの世界の片隅でおきる。
現実味がなくなるほどのアカい空間の中で彼は持っている拳銃から硝煙をたなびかせながら口を左右に裂くようにして笑みを浮かべ唯一彼以外で【生きて】いる少女を見つめる。
「キミはまるでこの世の全てを知っているかのように達観しているね?」
「そんなつもりはない……」
「いやいやいや。ボクががそう感じると言うことは世界の中で誰かがそう感じてるというわけだ。…つまりキミは誰かしらにそう感じさせるような態度をとっているんだよ!それを真っ向から否定するのはキミがキミ自身を理解していないからだ。キミ自身がしらないキミの中にそんな感情があるわけだよ!!!」
彼は神に心酔するかのごとく彼女をうっとりと見つめて、朗々と話す。
「…あなたはお喋りですね。」
「ひどい言われようだね。ボクはキミがしらないキミの一面をきちんと教えてあげただけだよ……」
さめた声で血の池に座りこみつつ彼を真っ直ぐ見上げていた少女が言った言葉にさも傷ついたかの様に彼は顔を片手で軽く覆った。
「どうして早く私を殺さないの?」
自分の死を悟り諦めたように少女は彼にとう。
表面上は無表情に取り繕いつつ。
「キミは自らを殺されると信じて疑わないわけだね?どうしてだい?」
「質問しているのはこちらよ。」
「そう、質問されているのはこちらだ。…だがキミがいま喋っていられるのはボクのお陰というわけだ。つまりこの空間に置けるすべての事柄はボクを中心にまわっている。…さて、もう一度聞こうか。どうしてだい?」
彼の理屈を聞かされていた少女は初めて目をそらした。
「…子供でもわかるわ。あなたは私の家族を殺したし、今現在武器を持っているのもあなただけ。殺されない理由がないわ。」
「それはキミ自身の見解だね。なのにそれをキミはボクに押し付けているわけだ。先ほども言っただろう?そうやってキミはキミ自身の考えを世界に押し付けて世界を知っているような顔をする!」
「…そうかもしれないわね。私はいま私の考えをあなたに当てはめて話しているわ。」
彼女のそんな返答を聞いて彼は虚を突かれた表情を少し浮かべると、次の瞬間には満面の笑みをはりつける。
「…おや?反論しないのかい??」
「あれほど言われれば反論する気も失せるわ。…それに所詮人は他人の考えなんか読み取れない……さぁ。答えたんだから早く殺して?」
「キミは面白いね。実に面白い!!…どうしよう。答えを聞いたら望む通りすぐに殺してあげようと思っていたんだが……やはり止めることにしようか…そうしよう。キミのような人間はそういない。私のそばに置いておいた方が楽しめそうだ!」
この数分で聞き慣れた彼 のお得意の演説を聞き流していた彼女は聞き捨てならない言葉に顔を上げる。
「そばに置く…?」
「イエス!!どうやらボクはキミのような人間を望んでいたようだ。だからキミをボクのそばに置く……キミの望みは却下になったよ」
彼は残念と言いながら笑顔で少女に死刑より重い宣告をした。
それは悪夢のような空間で悪魔のような彼との初めての出会いにして始まりの日のこと。
数年後―
「昔からキミは時々まるでボクとキミの思考回路が同じだと言うように話すね。けれどキミとボクは全く別の人間なわけで同じ思考をもつわけじゃない。…キミがいかにボクを嫌っていてもボクはキミを愛しているんだから」
黒で整えられたら美しい部屋の中でお茶をたのしみながら彼と少女から女性に変わった彼女は向かい合う。何百回と行われた会話をしながら。
「それは一種の死刑宣告?」
「いいや?一種の無期懲役宣告だよ!!」
「…相変わらず趣味がわるいわね」
「今更じゃないか!」
「…自分で言うのね」
彼女はまるで昔の事がなかったかのようにクスッと微笑む。
彼はまるで昔の事を慈しむようにニヤッと笑う。
彼女が幼い頃夢見た白馬の王子は現れない。
紅いアカい殺人鬼の虜にされたから……
それは誰もしらない小さな小さな歪んだ愛の話