しがないバイトです。
□第五章
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「なに?」
遥ちゃんの顔がぐいっと近づき、俺は驚いて後退した。
「ちょっと、座ってください」
「はあ」
促されるまま向かいの椅子に座る。
「佐伯先輩、告白は?」
「え?」
こくはく?
こくはくって、何だ?
***
尾西さんは佐伯先輩のことが好きだ。
そう気づいたのは数日前、バイト先に尾西さんが来たとき…
『尾西さん!これってどこに入れればわっ』
『危ねえな…気をつけろ』
『すいません』
佐伯先輩が器具を片付けようとして危うく落としかけたとき、その背中を支えた尾西さん。
素直に謝った佐伯先輩を見ているあの表情は、女の勘によるとどうやら好きな人を見ている顔だった。
確信は無かった。だが、私の前で見せたことの無い笑顔で微笑むあの姿は、佐伯先輩に好意を寄せている証拠だと思う。
そして昨日、二人でラットランドへ行っていたなんて。あの尾西さんが二人でなんて、もうこれは確信に近い。
そして昨日は更に佐伯先輩が尾西さんのことを好きだと発覚したのだ。
「先輩は尾西さんのことが好きなんですよね」
そう言うと、目の前の顔がみるみるうちに赤くなった。
「ですよね」
「…うん…、き、気持ち悪いかなあ?」
真っ赤な顔の長い睫毛が切なげに伏せられる。
先輩に耳としっぽが生えていたとしたら、確実に垂れているだろう。
「そんなことないです!障害は多ければ多いほど燃えるって言いますし、私は偏見なんてありません!」
胸を張ってそう言うと、一瞬だけ先輩の目が輝いた。
それでもすぐ曇った表情を浮かべる。
「…でもさ、告白したら絶対振られるし、そしたらバイト続ける自信ないや…」
"尾西さんは絶対オッケーしてくれます"
そう言いたいのを精一杯飲み込んだ。
これは私が言うべきことじゃない。落ち着け私、落ち着け。
「じゃあ、告白じゃなくてアタックしましょう」
「え?攻撃?」なんて言っている先輩はちょっと天然の節があるのだろうが、構わず続けた。
「んー…尾西さんの誕生日は知ってますか?」
「聞いたことない…あ」
何か思い出したように携帯を取り出した先輩は、ぱっと笑顔になった。
「アドレスに『0718』って入ってるんですけど、もしかして誕生日かな」
「それです!!」
あ、やばい私鼻息荒かったかも。
「7月18日…再来週ですね」
「うん。それで、誕生日がどうしたの?」