しがないバイトです。

□第一章
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店内を見ると、俺以外のバイトは全員来ているようだった。
今日のシフトだとええと…橋本さんと遥ちゃんに俺、だな。

俺はあくまで堂々と歩いた。尾西へのささやかな抵抗だ。

「よう、佐伯。重役出勤とは出世したな」
「…すいません」

しかし、そんな抵抗も無駄だった。尾西は俺を見ることもせず、手に持ったバインダーに何やら書き込んだ。
どうせ"佐伯、マイナス30点"とかそういう類のものだろ。

「ええと、今日は橋本さんに山本、それに遅刻魔。店舗チェックは一通り終わったから、橋本さんと少し改善策を話し合いたいのですが、橋本さんいいですね?」
「ええ」
「じゃあ残りの二人はさっさと自分の仕事を始める」

そう言って奥へ消えてしまった。
遅刻魔、と言われたことはこの上なく腹立たしいが、先月のように散々悪口を言われなかっただけ良かった…!
なんたってこの1ヶ月間、バイト全員で隅々まで清掃したり、接客を勉強し直したりしたからな。
俺は大きな伸びをした。

「あ、悠兎先輩、私レジやりますね」
「ああ、ありがとう」

山本遥ちゃんは今年の春から高校生になった、同じ学校の後輩だ。
バイトを始める時期は俺が3ヶ月早かったくらいで、パンの知識は俺より持っている。
清楚で優しい、ポニーテールの似合う女の子だ。

じゃあ俺は売れ残りを下げたり、トングを洗浄機にかけるくらいか。

売れ残りといっても、このパン屋はなかなか人気があり常連さんが多いのでほとんど売れてしまう。
個数だってそこまで多く焼かないから、需要と供給ってーの?がうまくバランスとれてると思うんだよなあ。

まあ、スーパーの中のパン屋ってこんなもんだろ。

鼻歌まじりにトングを洗浄機にかけていると、あっという間に閉店の時間になった。
あとは店内の清掃を全員でやり、戸締まりをすれば今日の仕事は終わりだ。

「佐伯くん、尾西さんが呼んでる」
「えっ痛っ!!」

尾西の存在なんてとっくに忘れていた俺は、閉めようとした窓に思い切り指を挟んだ。
橋本さんは笑顔で続けた。

「ああ、別に怒るつもりは無いって言ってたわ。待たせても悪いし、清掃は私と遥ちゃんに任せて」
「橋本さん、俺掃除したい…」
「だーめ」

箒と雑巾を橋本さんに任せ、俺は渋々店の奥の社員室兼ロッカールームへ向かった。

いいか?俺は尾西が怖いんじゃなく、嫌いなだけなんだ!
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