GUN COMPLEX

□two
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「…閉都」

深くシワの刻まれた祖父は、圧倒的な存在感を放ちながらも柔らかな口調で俺の名前を呼んだ。
目を見ればとても愛しいものを見るような視線が返ってくる。

「なに?じーちゃん」

祖父はこのところ少し耳が遠くなった。それを考慮して隣に座る。
「時飛家はどうじゃった」
「!?」

硬直。
これってつまり、祖父に俺が時飛家にいったってことがバレた…?

「な、なんのこと」
「とぼけても無駄じゃ。まあよい、一家の三男坊の閉都に頼みたいことがある」

祖父が乾いた音で指をパチンとすると、母が箱を持ってきた。
そして俺の目の前の料理をどかすと、そこにどっしりと置く。

「へーちゃん、見て」
「ん?」

じゃじゃーん!そう言って母が開けた箱に入っていたのは…

「なに…これ」

俺の通っている学校の制服だった。
いや、ただの制服ならいいのだ。

母が両手で広げたのは、襟と裾にレースの付いた、女子の制服だった。

「お父さん、説明お願い」
「ああ。…閉都、お前はコレを着て時飛家に潜入しなさい」
「せ、「潜入だって?」」

俺の声を遮ったのは兄。テーブルの上に身を乗り出すようにしてこちらを見ている。

「じいちゃん、それは無いって!なんで閉都なんだ?ってか閉都、時飛家とどういう関係があるんだ?」

母さんより過保護な兄の長い説教が始まりそうな雰囲気に、俺は慌てて祖父に向き直った。

「じ、じいちゃん、顔は割れてるんだしわざわざ女装する必要は…」

しかし、続きを言うのを俺は躊躇った。なぜなら普段は温厚な祖父の目が…吊り上がっているように見えたからだ。

「おい閉都、聞いてんのか?」

兄も相変わらず喚いている。
…他の家族を見回すと、「お前のせいでご飯が食べられないじゃないか」という視線を浴びせられた。

こういうときは俺が折れるしかない。

「…わかった。ちゃんと潜入捜査はするよ。そのかわり、女装はしない。それでいい?」
「皆はどうだ」

祖父が皆を見るのと一緒に、俺も部屋を見回す。
皆それでいいというように頷いた。

「あら〜ママはぜひへーちゃんに着てほしかったんだけどな」
「…嫌だよ」

大袈裟に残念そうにうなだれた母を席へ押しやり、夕食が始まった。

…潜入捜査かあ…。

「閉都、後で俺の部屋に来い」

席へ戻ると兄にそう囁かれる。
今夜は説教で終わりそうだ…。
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