短めの話
□空箱を振り捨てる
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例えばフリスクだとか、あるいは積み重なったダンボールだとか。
箱と呼べる形のものは全て、空になっても取っておく。
お前が知ったら、捨てられないだけの間違いだろなんて、笑って言うんだろうな。
眩しい 全てが 箱の
四個の角は皆バラバラの方向を向いているのに、一つなんだ。箱は、一つ。
俺達四人はたまたま同じ学区に生まれて、同じ学校の、同じクラスになっただけ。
俺がそう思ってたくらいだ、三人もそうなのかと思い込んでいた。
「ーーーえ?」
11月も中頃。いつも通り登校時間ギリギリに教室へ滑り込んだ俺は、マフラーを外す手を止めた。
「聞いてねえのかよ」
嘘だ、そんなの。知らない、知らない!!
そう言いたいのに声が出ない。
昨日は一緒に帰ったんだ。
暗い道で、街灯に照らされたあいつの顔は笑顔で。
「強盗らしいよ。ご両親とお姉さんは軽傷で済んだんだって」
別の高めの声がそう告げた。
「よ、頼人(よりと)は」
「…意識不明…らしい」
右手を音が聞こえそうなほど握りしめた晋(しん)は、今までに聞いたことの無いような力の無い声でそう答えた。
イシキ、フメイ
「未来歩(みきほ)っ…!!どうしよう、どうしよう…!!頼人…!」
アキにガクガクと揺さぶられた俺の身体が、浮いているような、まるで自分を外側から見ているような気分で。
昨日まで元気だった頼人が、意識不明だなんて。
俄かには信じられなかった。
その日一日、俺達三人は会話らしい会話なんてできなかった。
***
「あ…」
市立病院。閑散としたエントランスを歩いていると、見覚えのある人がこちらへ向かって来るのが見えた。
憔悴しきった顔。頼人のお母さんだ。
「あら…お見舞いに来てくれたの?」
「…はい。頼人は…?」
おばさんは赤くなった目元を隠すかのように少し俯いた。
右手に巻かれた包帯が、嘘ではないのだと物語っている。
「頼人はね…いえ、そうね、303号室だから、三人で会いに行ってやってちょうだい」
「おばさんは?」
「私は家から荷物を持ってこなきゃだから…心配かけてごめんなさいね」
顔は上げないまま、三人の横を通り過ぎていった。
晋もアキも声がかけられなかった。俺もだ。
小さな背中が、泣いていた。
「…行こう」
303号室までの道のりは、まるでそう仕向けられたかのように長く暗い道のりだった。