短めの話

□おにぎり温めますか?
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「460円になります」

商品を袋に詰めていると、小銭をばしん!とレジの台に置かれた。

(またか…)

顔を上げるとそこに立つのは学校帰りであろう中学生。妙に学ランの似合わない長身で俺を見下ろしている。

「…40円のお釣りになります」
「…」

差し出された手に小銭をちゃらりと落とす。
そいつは商品をばしっと取ると、俺の顔を一瞥してずかずかと出ていった。

「ありがとうございました…」

そいつは俺がバイトしている日はいつも必ずやってきて、合計500円で買えるものを買っていく。
しかも不思議なことに500円ぴったりのものは買っていない。
それがもう3ヶ月になる。
お互い顔は覚えただろうが、会話は一度もしたことがない。

これが、俺の日課だった。

***

「なー、4時から9時って客多くてダルくね?」
「コンビニだしどの時間も混むだろ」

春谷は肉まんを取り出しもしゃもしゃと食べだした。

「…おい、それ商品だぞ」
「お金払うって。ほい」

渡された125円をレジにしまう。まったく、こいつは学校でもこうなんだろうか。
二人とも初めて始めたバイトで、高校生同士という点もあり俺達はすぐ仲良くなった。

「いいけどさっさと食えよ。お客さん来るだろ」
「へーい」

外を見ると車が一台止まった。
見覚えのある車。出てきたのは若い母親と小さな女の子。
駅近くに住んでいる常連さんだ。

「いらっしゃいませ」
「こんにちは」
「こんにちは」

母親の挨拶ににこっと笑顔で返す。女の子が小さく手を振ってくれて、俺もぴらぴらと振り返した。

「美都(みと)って子供に好かれるよなあ」
「そうか?」

春谷に小声で囁かれる。
美都というのは俺の下の名前だ。女らしくてコンプレックスなのに、春谷は必ず名前で呼んでくるのだ。

「俺なんてあの子に『こんにちは』って言ってもシカトくらったからな。ぷいって」
「はは、営業スマイルがばれたんじゃねーの」
「なんだと!」

まあ、確かに近所のガキんちょの面倒を見るのは好きだし、子供に好かれても悪い気はしないな。

談笑していると先程の女の子が母親に手を引かれレジまでやって来て俺を手招きした。
レジをぐるりと回って女の子と同じ目線に座る。

「おにいちゃん」
「ん、なあに?」
「ゆきみだいふく、どこですか」
「こっちだよ」

おいで、と言って手をつなぎアイスコーナーへ向かう。
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