短めの話

□二人だけの世界
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「なー、ずっと勉強してて飽きないの?」

ベッドの上から話し掛けられる。

「そこ、汚すなよ」

イチが食べ散らかしたポテチの食べカスが気になったが、それよりも勉強だ。

高校生も2年目の夏休み。
有名進学校に通う俺達二人は、ほぼ毎日のように一緒に勉強をしている。

と言っても、真面目に勉強しているのは俺だけだ。
イチは勉強しなくともいつも学年で一桁で、チャラい外見からは想像もつかない天才だ。

それなのに足しげく俺の家に通うのには理由がある。

俺達は所謂恋人同士なのだ。

「いいな、お前は。勉強しなくてもいつも満点で」

ペンを止め、向かいのベッドのイチを見上げる。
こぼした食べカスを気にするでもなく漫画を読んでいたイチは、顔を上げるとニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

「ニシ、それ誘ってんの?」
「は」
「ニシはさあ、ヤりたいときいっつも俺を羨ましがるの。知ってた?」

ベッドから降りたイチが、じわじわと近寄ってくる。

「イチはイチ、ニシはニシって、ちゃんとわかってるくせにそうやってあまのじゃくなこと言ってさ、俺の気を引きたいんだ」

俺は「う、」と言葉に詰まる。

確かに昔は羨ましかったが、今はそうは思っていない。
イチはイチだし、俺は俺だ。

そう思う間にも、イチの顔が近づいてくる。

「待て、俺はヤりたいなんて思ってない」

それは本当だ。勉強がしたいのだ。
ただ単純に羨ましいと思っただけだ。

「俺はヤりたいの」
「夏休み明けの考査を落とすわけにはいかない!」

イチの指先が俺の手に触れる。

「俺が教えてやるから」
「そういっていっつもはぐらかすのはどっち…!」
「いい加減うるさいよ」

手首を掴まれ、唇を塞がれる。
床に落ちるペンの無機質な音が引き金かのように、イチは俺にかじりついてきた。

「んん…!」
「口、開けて」

俺はかぶりを降る。このまま素直に従ったら絶対に流されると思って、唇を噛み締めた。

「ニシ、血が出ちゃうよ」

鼻先が触れ合う距離でイチが言う。

「俺のこと嫌い?」
「…」
「俺はニシのこと大好き。いつも一生懸命で、綺麗で、俺のことイチ、イチ、ってたくさん呼んでー「好きだ」…え?」

「イチのことが好きだ。ふざけてそうで実は真面目で、優しくて、笑った顔も大好きだ」

ああ、俺、折れちゃった。
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