しがないバイトです。

□第二章
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「桃太郎や、きびだんごは持ったかい?」
「はい、おばあさん、おじいさん。いってまいります」

腰に付けたきびだんごを握りしめ、大好きな我が家を後にする。

道中出会ったキジ、猿、犬。
俺は彼らを引き連れて歩いた、歩いた。

「おや、鬼ヶ島が見えてきた」
キジが言った。

コン、コン、コン

俺は鉄製のドアを叩く。
「おじゃまします」

ドアを開けると、金棒の山。
それをみんなで掻き分け掻き分け、なんとか見つけたのは一つのベッド。

「ここで疲れをとろう。みんな、おやすみ」

「おやすみ」
犬が言った。

「おやすみ」
キジが言った。

「おやすみ」
猿が言った。

「おやすみ」
鬼が言った。


…え?

鬼?
それにしては柔らかい声色−−−。

***

「…!…きろ!…き!」
「んぅ…」
俺は身じろぐ。

「起きろ!佐伯!」

ん…?鬼の声?

「…クビ、だな」
「起きますた!!」

俺は飛び起きた。"正しい飛び起き方"、なんていうDVDを出すとしたら間違いなく見本として使われるであろう起き方で、飛び起きた。

「もう8時だぞ、学校はいいのか」
「…学、校?俺は鬼ヶ島で…犬がキジを金棒して…」
「寝ぼけてんのか」

夢の中の鬼と同じ声のこいつは、そう言いながらベッドに乗り上げ、あろうことか、

「いったあ!!!」

頭突きをしてきた。

「目は覚めたか」
「あい…」

おでこをさすりながら答える。これはれっきとした暴力だ!
痣になんてなっていたら、訴えてやる…多分。

「って!8時って言いました!?」

尾西はあからさまにため息をついた。
「はあー…そうだ。飯は作ってある」

「すいません…あ!着替え!やべえ!」

そうだ、肝心なことを忘れていた。
昨日の夜は仕方なくYシャツの中に着ていたTシャツと、制服のズボンをまくり上げてパジャマ代わりにしたんだった。

ズボンはこれでいいとして、Yシャツが無い。

「ああ、Yシャツなら洗濯機の中だ」
「じゃあ一旦家に帰ってから登校かあ…」

逆方向だが、仕方ない。
とりあえずお腹が減った。
ご飯をいただこうとベッドから下りると、尾西は何やらクローゼットを漁っているようだった。

「どうしたんすか?わぷっ」

顔面に投げつけられたそれは。

「俺の高校時代のYシャツだ。同じ高校でよかったな」

きちんとアイロンのかけられたYシャツだった。
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