しがないバイトです。
□第二章
1ページ/17ページ
「桃太郎や、きびだんごは持ったかい?」
「はい、おばあさん、おじいさん。いってまいります」
腰に付けたきびだんごを握りしめ、大好きな我が家を後にする。
道中出会ったキジ、猿、犬。
俺は彼らを引き連れて歩いた、歩いた。
「おや、鬼ヶ島が見えてきた」
キジが言った。
コン、コン、コン
俺は鉄製のドアを叩く。
「おじゃまします」
ドアを開けると、金棒の山。
それをみんなで掻き分け掻き分け、なんとか見つけたのは一つのベッド。
「ここで疲れをとろう。みんな、おやすみ」
「おやすみ」
犬が言った。
「おやすみ」
キジが言った。
「おやすみ」
猿が言った。
「おやすみ」
鬼が言った。
…え?
鬼?
それにしては柔らかい声色−−−。
***
「…!…きろ!…き!」
「んぅ…」
俺は身じろぐ。
「起きろ!佐伯!」
ん…?鬼の声?
「…クビ、だな」
「起きますた!!」
俺は飛び起きた。"正しい飛び起き方"、なんていうDVDを出すとしたら間違いなく見本として使われるであろう起き方で、飛び起きた。
「もう8時だぞ、学校はいいのか」
「…学、校?俺は鬼ヶ島で…犬がキジを金棒して…」
「寝ぼけてんのか」
夢の中の鬼と同じ声のこいつは、そう言いながらベッドに乗り上げ、あろうことか、
「いったあ!!!」
頭突きをしてきた。
「目は覚めたか」
「あい…」
おでこをさすりながら答える。これはれっきとした暴力だ!
痣になんてなっていたら、訴えてやる…多分。
「って!8時って言いました!?」
尾西はあからさまにため息をついた。
「はあー…そうだ。飯は作ってある」
「すいません…あ!着替え!やべえ!」
そうだ、肝心なことを忘れていた。
昨日の夜は仕方なくYシャツの中に着ていたTシャツと、制服のズボンをまくり上げてパジャマ代わりにしたんだった。
ズボンはこれでいいとして、Yシャツが無い。
「ああ、Yシャツなら洗濯機の中だ」
「じゃあ一旦家に帰ってから登校かあ…」
逆方向だが、仕方ない。
とりあえずお腹が減った。
ご飯をいただこうとベッドから下りると、尾西は何やらクローゼットを漁っているようだった。
「どうしたんすか?わぷっ」
顔面に投げつけられたそれは。
「俺の高校時代のYシャツだ。同じ高校でよかったな」
きちんとアイロンのかけられたYシャツだった。