しがないバイトです。
□第六章
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頬をつねる、椅子を蹴る、頭を叩く、しつこく名前を呼ぶ、全て試したが目の前の子兎はこれぞまさに上の空だ。
「悠兎!」
「…」
「悠ちゃーん?」
「うるさいなー…」
休み時間に入った教室は、夏の日差しよりもうっとおしい。
明日から夏休みということで、殆どの生徒が浮足だって騒いでいるのだ。
椅子の向きをくるりと変えて佐伯と向かい合う。
昨日からコイツの様子が変なのだ。じっと観察していると、いきなりにへらぁと笑ったかと思えば頭をブンブンと降る。
「お前どうしたんだよ、熱でもあるのか?」
「無いよー、無い、ない」
無いってばあ!と一際大きな声を出して、佐伯は机に突っ伏してしまった。
何かあったということだな、そう判断した俺は無理矢理聞き出すというわけにもいかず下敷きを使い生温い風を送ることしかできなかった。
例えば佐伯母に再婚相手が見つかって喜んでいるとか、はたまた好きな女の子でも出来たか…。
「…それは嫌だな」
誰にともなく呟いた言葉は、チャイムと教師が開けたドアの音に掻き消された。
「着席ー」
なんともやる気の無い声でそう言った教師・原は形の良い眉毛を上げて言った。
「あー、明日から夏休みだ。三年生のお前らに言っておくことはー…まあ受験勉強ってやつだな、ちゃんとやれ。どんどん遊べと言いたいが他の先生が見回りするらしいから程々にしておくように」
教室内から非難の声が上がる。
「うるさい。それで、夏休み中の課題についてだが−−−」
俺は原の話を聞き流しながら、佐伯のことを考えていた。
もしかして、だ。
もしかしてもしかすると、尾西と何かあったんじゃないだろうか。
「尾西浩一に頼れ」と言ったのは俺以外の何者でも無いが、俺