GUN COMPLEX
□one
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「西暦を採用していた時代が終わり、今は兆暦へと移り変わった。兆暦を立案し公布するに至った経緯は−−−」
うつら、うつら。
生徒の大半は眠っているか、新作のゲームを堂々とやっているか、…出席していない生徒さえ見受けられる。
教師は癖になりつつあるため息を盛大に吐いた後、こう付け加えた。
「…歴史というのは絶えず繰り返されている。一度消えた世界もこうして元通りだ。ご先祖様に感謝するんだな」
薄くなりはじめた後頭部をぽりぽりと掻いた時、終了を知らせるメロディが室内に響いた。
生徒は皆一斉に机上のモニターを消し、帰り支度を始める。
俺はひとり、興奮が冷めやらずにいた。
(Earthの授業が一番好きだ)
"Earth"。遥か数万年前、この地球上に生きていたとされる人が使っていた言葉。
意味は、「地球」。
その「地球」についての歴史を学ぶEarthの授業がある日ほど、俺の心が弾む日は無い。
「ヘート、帰るぞ」
「新しい武器見に行くんでしょ?はやくはやく!」
急かしている声は俺には届かない。
脳内を占めるのは先程の授業のことばかり。
"歴史は繰り返す"
"地球は一度死んでいる"
ドク、ドク。
全身に流れるこれは、きっとアドレナリンに違いない。
席から動こうとしない俺を見兼ねてか、二人が近くへ歩いてきた。
旱(ひでり)はモニターの上に、フサギは背後から。
「ヘート?」
顔を覗き込んだのは旱。
最近切り揃えたばかりの髪が光りに当たってキラキラと輝いている。
俺が唯一マトモに話せる女の子だ。
「返事しろ、アホ」
頭上で拳を振りかざしているコイツはフサギだ。
制服の似合わない妙に大人びた顔が憎たらしい。
二人とも、幼なじみだ。
「「聞いてんのか!?」」
「あ、悪い」
俺は一体誰にこいつらの紹介をしていたのか不思議に思いながら、返事をした。
じゃあついでに一つ、俺のことも紹介しておこうか。
K・閉都(ケイ・ヘイト)、15ベル。
ベルというのは年齢の単位だが、俺は好きじゃない。昔の人は「歳」って言っていたんだ。
そう、俺は昔が好きだ。「昔」というと漠然としているけれど、そうだな、要するに西暦を採用していた頃が大好きなのだ。
俺の思考はどんどん深くなっていった。
旱とフサギには申し訳ないけど、しばらくこの高ぶりを言葉にしていたい。
話せば少し、長くなる。