しがないバイトです。
□第三章
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「…ってことでさ」
「はあ?ってことはつまり鬼も来るってことか?」
「うん」
「チッ」
川田は綺麗な舌打ちをするなあ。
寝起きのぼーっとした頭のまま連れて来られたkitchen strawの店内を見回す。
俺がずっと憧れていたバイキング専門店。
内装は思っていたよりもずっと広く綺麗で、店内にはいい香りが漂っている。
「よっしゃ、今日は腹一杯食うぞ!」
「おう」
勢いよく椅子から立ち上がる、と、思い切りバランスを崩し背中から倒れそうになってしまった。
「っぶねえな」
「わり!」
そっと背中を支えてくれる手。
やっぱり、川田が触ったときは恥ずかしくない。
(なんなんだよもう…)
まあ、お腹減ったしな!
ぶんぶんと頭を振り余計な思考を飛ばす。
「悠兎、これ食う?」
好きなだけ盛りつけて席に戻ると、差し出されたパフェ。
「初っ端からデザートかよ」
飽きれ気味に言う。
「うん、持ってきたはいいけど食う気が起きなくてさ、悠兎食ってよ」
「しょうがないな」
川田から渡されたそれを一口口に運ぶ。
口の中に広がる濃厚でちょっぴり酸味のきいたイチゴムース…
「うまい?」
「超うまい!」
「良かった良かった」
ニヤニヤと笑う川田を不気味に思いながらも、俺はパフェをあっという間に平らげた。
たくさんの食事を机に運び、少しずつ食べていると、ふと店員が近寄ってきた。
「お客様、申し訳ありません。ただいま店内が満席となっており、こちらは4人掛けの席となっておりますので相席をお願いしたいのですが…よろしいでしょうか?」
「いいですよ。な」
「うん」
俺も川田もそういうのは気にしないので、快く了承した。
美味しいものは大勢で食べるに限る。
店員は笑顔でお礼を言うと、小走りでお客様を呼びに言った。
「それではお客様、こちらでございます」
「ああ、すまない」
不意に耳に届く聞き覚えのある声。
「おいおいやめてくれよ…!」
川田も気づいたらしい。それもそうだ、だってこの声は、
「お前らか。奇遇だな」
あからさまな口調。
そこにいたのは尾西と知らない男性だった。
「…どうも」
俺と川田は向かい合って座っていたから、俺の隣には尾西、川田の隣には知らない男性が座った。
…まあ、見ず知らずの人と食べるよりはいいよ、な。