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□Have a happy X'mas!
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「ぎゃっ!」
唐突に頬に温かいものが押し付けられて、変な叫び声を上げてしまった。

尾西が手にしているのはどうやらカイロのようだ。

「売れたか?」
「はあ…こんばんは」
「ん」

短く返して、今度はカイロを投げてきた。
俺の手にぼすっと収まる。

「仕事は?」

俺の横に腰掛け白い息を吐いている尾西が、少し眠そうな目でこっちを見た。

「さっさと切り上げてきた。クリスマスだからな」
「!」

ひやりとした感覚が指先に伝わる。
それが尾西の手だと気づくのに時間はかからなかった。

「カイロ半分貸せ」
「…はい」

カイロなんて言っているが、尾西は俺の左手を握っているばかりだ。
照れ臭くて俺は握り返せなかった。

「これ、売れ残り?」
「はい」

寂しそうに置かれた白い箱を指差す。

「じゃあ俺が買う。いくら」
「2500円ですけど…一人で食べるんですか?」

売れ残った6人用のホールケーキを一人で食べる尾西の姿を想像して、俺はクスッと笑った。

「違えよ。お前どうせ一人なんだろ?」
「え?」
まさか。心臓が大きく跳ねた。

「一緒に食べよう」

俺を見るその視線が温かくて、俺の心臓がまたうるさいくらい跳ねた。

「聞こえてんのか?」
「は、はい!食べます!」

手を思い切り握り返していたことなんて、気づかなかった。
***

「お邪魔します」

見慣れたリビング。
電気をつけ暖房を入れ、いつものようにソファに座った。

「いい加減着替えたいんですけど」
「俺へのプレゼントってことで」
「…」

バイトが終わって、なぜかサンタの格好のまま尾西の家に連れて来られた。

「ほら、食うぞ」

いつの間に用意したのか、テーブルの上には様々な料理とケーキが並べられていた。

「昨日のうちに作っておいたんだ」
「俺のために?」
「ああ」

…からかいのつもりで言ったのに素直に返されてしまって、もう今日の俺は恥ずかしすぎて死んでしまいそうだ。
そんな俺を尾西は黙って見つめている。

「いただきます」

尾西の視線から逃れるように料理に手をつけた。
一口食べれば、温かさがじわっと広がる。

「…美味しい」
「当たり前だ」

外を見れば、雪。

「綺麗ですね」
「ああ」
「…幸せです」
「…ああ」

好きな人と過ごすクリスマスの幸せを噛み締めるように、いつの間にか繋がれた手をゆっくりと握り返した。
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