文ログ

□探偵のバレンタイン
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ジョージ・ジョースターの後の話。



「カーズ先輩に届きますように!」
 2月14日の夜。
 空に向かってチョコをブン投げてみた。

 あの事件以来、僕はカーズ先輩と会っていない。
 僕はというと、もうすぐ高校生卒業を控えていた。
 それだけの時間が経っていた。

 実はどっかで見守ってて、僕が助けを求めたら、ひょいと助けに出てきてくれるパターンなのかな、とか思ったけれどそうでもなかった。

 学校の試験中に腹痛に耐え兼ね、カーズ先輩……っ……助けて……!!と、手を組み信心深く祈ったがカーズ先輩のカの字も見えない。腹痛は良くならなかった。腹痛のせいで試験に集中できず、僕史上例を見ない点数を取った。

「俺が腹痛をどうにかできると思っているのか」
「人の脳をどうにかできるカーズ先輩が腹痛をどうにかできないわけないじゃん? ギャーーーーッ!?」

 カーズ先輩が目の前にいる! しかもなぜか心を読まれている!! 片手には僕が投げたチョコを持って仁王立ちしている!!!

 僕の目の前から消えたあの時と、何一つ変わらない。あの黒ふんどしで、長い黒髪で、キッツイ釣り目。あの時のカーズっちがそのまま、目の前に現れた。

「お前背が伸びたな」
「! そりゃ成長するよ」

 開口一番それか。

 せっかく久しぶりに会ったんだから、言うことがあるんじゃないのか。なんて思いもしたけれど、よくよく考えてみると、僕とカーズはなんでもない。

「ふーん。まだ伸びたいと思うか?」
「自分で伸びるからいいよ」
「なんだ、つまらん」

 人の身体をなんだと思ってるんだ。

「お前が投げたコレは無事に俺の手元に届いたぞ」

 そう言いながらチョコレートの箱に顔を近づけ、匂いを嗅いでいる。

「……チョコレートだな。そうか、今日はバレンタインデーか。日本のバレンタインデーは異性に渡すものではなかったか」
「エッ、そうだけど」

 僕はどうせ届かないと、届くわけがないと思っていたから、ダメ元で投げてみた。それだけだった。だからいざ本人の手に渡ってみると恥ずかしくてしょうがない。しまいにバレンタインデーどうこう指摘されると恥ずかしさに拍車がかかる。

 あっカーズ先輩が変な目で僕を見ている。

「俺は確かに究極生命体、神に等しい存在だが仮にも男」
「違う違うそう言うんじゃないって!! ホラッ! 友チョコ!」
「ともちょこ」
 僕が言った言葉を反芻する。バレンタインデーは知っていても友チョコは知らないらしいな。
「そうっ! 友達に贈るチョコレート!」
「ほう……」
「うん」
「俺とお前が友達か」

 カーズっちは意味深に僕の顔とチョコレートを交互に見る。

「面白い、受け取っておいてやる」

 とかなんとか言いながら自分の腹にずぶずぶとチョコレートを箱ごと吸収してしまった。なんかもったいない気がする。

「カーズっちこれからどうするの? またどこか行くの?」
「少しこの町に滞在してからな」
「へー」
「お前の家に案内しろ」
「!?」
「まさか城字は友達に野宿を強要するほど薄情な男なのか?」

 僕の目を見ながら言う。

 図々しい駆け引きは昔から得意そうだ。こんなカーズっちに友人がいたとするなら、よっぽど奇特な人物だったんだろうな。

 泊めてあげるんだから、せっかくだから、今晩はたくさん話を聞かせてもらおう。カーズ社長は、僕が見れないいろんな世界を見てきたんだから。きっと推理小説よりも面白い話が聞けるだろう。

 友達にそれくらい話してくれてもいいよね。

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