Here you are!
□LIFE
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「松潤、映画見に行ったの?お前何も言わないじゃん」
「そう、昨日ね、ちょっと時間出来たから」
舞台の稽古と、肉体改造に忙しい松潤が、見たいと言ってくれていたオレの最新映画を見に行ってくれたのだ…
そりゃ嬉しいんだけど…
「おい、それだけ?感想とか、他に何か言う事あるだろ」
「んー…良かったよ…久し振りに映画見て泣きそうになった」
「泣きそうに?泣かなかったの?」
オレの質問に松潤は黙って微笑むだけで、
拍子抜けする。
今回の映画は、今まで味わった事の無い苦しい役作りを強いられた。
昔夢見た医者をお芝居で演じる…
だけど、人の命というテーマはやはり簡単に割り切れる物ではない。
クランクアップで自然と涙が溢れる程…悩んで苦しんで…いや、むしろだからこそ、その苦しみが出ていて…役を演じきれたのかもしれないけど…
「お前…」
ただ穏やかにオレを見て微笑む松潤…本当は色々言ってもらいたいんだ…
そう、コイツの事だから、小さな演技や小道具、台詞や、これはどうやってカメラ回したの?なんてカメラワークまで聞いてきてくれるのに…
オレは松潤とするその会話がとても楽しいのだけど…
「翔くん、今夜行って良い?」
映画とは全然関係の無い話題へと変わってしまった…
「良いけど…お前夜もジム行ってんだろ?平気なのか?」
「ん、だから9時過ぎるかな、翔くん何時頃になる?」
「今夜はドラマの方入って無いから…早いよ」
「ごめん、飯は作れないけど、とりあえず夜行く」
相変わらず微笑みながらオレを見つめる目は優しくて、口角の上がった歯の見える唇も、小さい顔に大きく凛々しい目も、目頭の横から高さのある鼻も…
全部カッコイイ…
コイツって本当カッコイイんだな…と改めて思っていると、今度はインタビュアーが松潤を呼んだ。
松潤は軽く返事をしてオレに目配せをしてからテーブルを離れた。
その動作でさえしなやかで、美しく、オレは目で松潤を追ってしまうんだ…
完全に恋…だな…
一人言を声に出さず心で呟いた。
最近は、夜遅くに食べないようにするために食事は職場で済ませる様にしている。
ほとんどロケ弁か出前か、18時までに夕飯にすると、さすがに夜中腹が減るからしっかり食べて…
まぁ…こう早く帰れると晩酌はしちゃうんだけど…
早めに風呂を済ませ焼酎と買い置きしておいた乾燥おつまみでちょっとウキウキしながら撮り溜めしたバラエティーを見る。
先日放送された、おもてなしデートで松潤と二人フォーマルスーツを着させられた。
テレビに映る松潤とオレのフォーマル姿は、ちょっと前に女性ファッション誌で撮影した教会での撮影を思い出す。
男二人だけでパイプオルガンの前に立つってどーよ?とか言いながら…白いスーツが松潤にとても良く似合ってて…
そういや、アメリカでやるゲイ同士の結婚式って、こんな感じなのかね?なんて雑誌発売当初思ったりなんかして…
「道明寺は本当…フォーマルがお似合いで…」
一緒にいた女優さんも可愛かったけど…目で追うのは松潤の姿だ…
1人晩酌、一人言、恋人を待つ1人の時間。
少しソワソワするのは恋のせい…
その日のマストアイテムマネキンファイブを見終わる頃玄関のオートロックが開いた。
「オ…ツカレ!」
玄関から、キャップに黒ぶち眼鏡で大きめな荷物を抱えた松潤が表れた。
松潤は頬を弛め「翔くんもオツカレさん」と返した。
「あっ、晩酌中?」
「ああ、松潤も飲む?」
「いや、酒は少し控えてる…」
荷物を下ろし、キャップを外した松潤の髪がサラサラ揺れて落ちる。
少し伸びてきたその髪は、普段ワックスで形造られてるのに、サラサラ落ちてくると…シャワーを済ませてきたんだな…と言う事が頭を駆け巡るオレって…やっぱ…どーかしてるよな…
「せめてビール?って…ビールも酒だってな!」
心の内を悟られないように笑いながらキッチンに向かう。
そのオレを突然松潤は後ろから抱きしめてきて…
「えー…っと…松本さん?」
どーかしてるオレのどーしょうもない体は一気にドキドキしてきて…
別に欲求不満って訳でも無いのに…
「翔くん…映画…本当良かった…」
静かにオレの肩口に松潤の吐息と言葉が落ちてきて、その感想がお世辞じゃなく松潤の本音だと…伝わってくる。
「撫で肩がさ、いつもより3センチ位下がってたね…ふふ」
嬉しそうに…静かに笑う松潤の声が優しくて…
「何だそれ…開口一番の感想がそれかよ…」
布越しに松潤のキスが肩に落ちる…
「ああいう、素晴らしい作品って…なかなか出会えないよ…脚本も映像も…音楽も…スゲー…羨ましい位素敵だった…」
呟いた松潤の声に、多少の悔しさが混ざり、それさえオレは嬉しくて…
「お前にそう言って貰えると…普通に嬉しいな…ありがとう」
素直に気持ちを伝えられた。
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