Here you are!

□T.A.B.O.O
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智くんは時々鋭い。


天性の勘、才能の人、だけど一番物腰が柔らかく、興味のない事にてんで無頓着…
それなのに度胸もあって、実は見た目と違って頭の回転も早い。
智くんみたいに沢山の才能を持っている人の事を神に愛された存在って言うんだろうな…

オレとは違う…

嵐のメンバーは、それぞれ個性があって、各々違った才能を発揮して…みんなそれぞれに敵わないって思う時があるけれど…
智くんに対しては無条件で勝てない…と感じていて…
そう、常々思っていた事だから、今更ヘコむ事じゃないのだけど…
今日の様な日は特にメンタルにくる…


オレはタクシーを降り、芸能人の顔をしながら隠れる様にマンションのエントランスをくぐり、オートロックの暗証番号を押そうとボタンの上に指を置いた。

そして一瞬考える…

オレのマンションなのに帰る事を躊躇う自分がいる。

何でこうなってしまったのか…
自分でも良く分かっていない。

だけど、多分…いつかこうなる様な気がしていた。

この重苦しい胸の痛みは後悔なのか、良心なのか…

分かっている事は一つ。

先が見えなくて、この結末がどこへ向かうのか…とても不安なんだという事。

オレは意を決して暗証番号を押した。


東京の一等地、タワーマンション、他人との関わりを切り取った空間、プライバシーを守る事を一番に作られた建物…

今のオレに一番適してる場所。エレベーターが止まる事なく昇ってゆく。

自分の部屋が近づくにつれて針の刺さる様な痛みが胸に走った。
いつも以上に大量の食料品。

これを家に置いたら、また出掛けようか…どこか友達の所か、行きつけのバー…ダメなら実家に帰っても良い…
そうしよう…
思った瞬間オレの部屋があるフロアに着いた。

エレベーターを降り自分の部屋の前まで、動じる事なく、芸能人の顔をして歩いてゆく。

再び暗証番号を、出来るだけ躊躇わない様に、いつも通りを装い押すと、ピーっと電子音をさせてロックが解除される。
ドアノブを握りカチャリと音をさせてドアを開けた。

一人暮らしのオレの部屋に、ついているはずの無いテレビの音、人の気配と、空気の流れる感触…窓が空いているんだとすぐに分かる。

オレはサンダルを脱ぎフローリングを素足で歩く。

テレビの前に座るソイツが、ジャラッという耳慣れない音をさせて振り向いた。

見慣れたその顔、ずっと傍にいた、少しクールで澄ました目をして…だけど何か言いたげにオレを見た。


どうしてこうなってしまったんだろう。


彫りの深い日本人離れした顔に、白い肌、テレビの前のフローリングに座っていたソイツは、滑らかな身のこなしで立ち上がるとジャラジャラと不釣り合いな音が鳴る。


どうしてこうなってしまったんだ?


スラリと伸びた手足、広い肩幅と肉付きの良い胸板…鍛えて絞られたウエスト。立ち姿でさえ完璧なソイツの左足には不釣り合いな、鎖で繋がれた足枷が嵌めてある…


どうして……

何度自分に問いかけても答えは出ない。

カラカラに渇いた喉を必死で震わせて言葉を吐き出す。


「…食い物…適当に食って…」


自分でも驚く程渇いた声…
握り締めていた袋をダイニングテーブルの上に置き、必死で平静を装う。

自分の部屋に、鎖で繋がれた人間がいる。
まるで、犬でも飼うかの様に…鎖で繋いで…

オレは何をしているんだ?
オレは何がしたいんだ?


その鎖で繋がれた人間が始めて言葉を吐いた。


「翔…さん…」


その響きは鎖で繋いだオレを責める様子もなく、ただ甘く、それでいて憐憫で…オレの欲望を駆り立てる…

それを振り払う様にオレは踵をかえした。


「待って!翔さん!」


呼び止められ、ビクリと体を震わせ立ち止まる…

何を言われても仕方がない。
どう責められようと…
この犯罪まがいの行動は、オレの犯した罪以外の何物でもない。
いっそ口汚く非難された方が…良かったのかもしれない…
そうすれば、現実に目を覚ます事が出来たのかもしれないのに…


「…翔さん…夜には帰ってくるよね?」


ソイツは、寂しそうに、すがるように小さな声で言った…
普段のソイツからは想像できない程弱々しく…

オレは……
枯れた喉を必死で震わせ…だが平静を装いながら…言った…


「分からない…」


言って、緊張で縺れそうになる足を動かしながら玄関を飛び出した。

喉は水分を欲し灼けつく様に熱い…

芸能人の顔など…どこか遠くに忘れてきてしまったかの様に狼狽えて…


「何でこうなっちまったんだ!」


吐き出した言葉で自分を責める…

オレの部屋には、足を鎖で繋がれた人間がいる…
この異常な状況に…不安で押し潰されそうで…
オレは頭を勢い良く左右に振った。
少しでも正気を保つために……
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