短編
□御伽話
1ページ/2ページ
多分、女の子は誰もが一度は御姫様になることを夢見ていたと思う。
たとえば、シンデレラや白雪姫みたいに、王子様が自分のことを探してくれるのを待ってみたりとか。
私もそうだった。
自分にもきっと王子様がいるんだって思ってた。
でも、今私が考えたら、昔みたいなことは考えないで、きっともっと自分が得をするようなことを考える。
だから私はもう信じたりしない。
絶対に…。
御伽噺
「何読んどるんじゃ?」
「…あまったるーい御伽噺」
人のせっかくの読書タイムを邪魔してくれたのは最近よく私にからんでくる仁王。
とか言いつつも、今日は図書当番の日で、暇つぶしに手近にあった適当な本をとって読んでただけ。
「おもしろいか?」
「おもしろいよ。この登場人物たちが次はどんなアホらしいことしてくれるかとかさ。改めて読んでみると、おかしなことだらけだよ」
「そうか?」
「そうよ」
そうでもないという風な顔の仁王に、私は説明してやった。
「たとえばシンデレラ。まず始めに、なんでシンデレラの父親はあんな腹黒い奴と再婚なんてしたのか。見る目がないとしか思えないわ。
まあそれはいいとしても、父親が死んだのなら、シンデレラもさっさと遺産持ってどっか行けばよかったのよ」
「そんなことできるんはお前さんだけじゃよ」
「そうかしら?女って意外と大胆なのよ?」
変なものでも見るような目の仁王は無視して、
「次に、シンデレラが舞踏会に行く意味がわからない。12時の鐘が鳴って逃げ帰るぐらいなら、最初から行かなければいいのよ」
「女はそうゆうのが好きなんじゃないんか?」
「好きだとしても、私は違う」
私からしてみれば、そんなことが好きだなんて、頭どうかしてるとしか思えない。
「それからガラスの靴。そんな靴はいてダンスだなんて、ホントどうかしてるわ。途中に割れるに決まってるじゃない。
まあ、もし靴が無事だったとしても、お城から逃げてくる階段の途中で落としたんなら、それはシンデレラの足にピッタリじゃなかったってことなのよ」
「夢がないのぅ」
「うっさい」
そんなこと自分が一番よく知ってる。現実主義者なんだもん。それもこれも、幼いころに両親が離婚したせいだ。
「最後に、今までのことを全部なかったことにして、王子様と結婚したとしよう。その後、どうして継母達をほっておいたのか、これが一番の謎ね。
だって、そこをどうにかしないわけには、めでたしめでたし、なんて言ってられないじゃない」
「もう少しまともなことを考えられんのか?」
「十分まともじゃない。だいたい、幸せをつかもうとするからいけないのよ」
「じゃあほかに何を求めるんじゃ?」
そうねぇ、と考える素振りをしてみた。
……けど、頭に浮かんだのはそこら辺の中学生が考えるようなことではないと、自分で思ってしまった。
「…お金、とか?」
「聞いた俺が馬鹿じゃった」
「なによ。どーせ私はまともじゃないですよーだ」
少し拗ねた表情をしてみたけど、仁王になんの反応もなかったからやめた。
「…だいたい、愛だの恋だの言ってる人はおかしいと思うわ。そんな見えない感情なんて、人を縛り付けるだけの醜いものでしかないの。そのくせ、すぐに消えて見えなくなる」
言ってることが矛盾してる。
もとから見えないものは見えなくなるなんてことはない。
「お前さんがシンデレラでもそうか?」
「私なら、そうねぇ…。きっと、ていうか絶対、さっき言ったようにするわ」
そうか、と仁王はつぶやくように言った。
「なら、王子様とやらは誰だと思う?」
「ねぇあんた、さっきの話聞いてた?私は王子様なんて…」
「たとえの話じゃ」
「たとえ、ねぇ」
そんなこと考えたこともない。浮かぶ顔もなかった。
「誰だろうね。わかんないや」
「そうか。……何しとるんじゃ?」
「え?帰る準備だけど」
言いながら身支度を整えていく。
「まだ閉めるには早いじゃろ」
「どうせ開けてても誰も来ないっつーの。
ほら、あんたもさっさと出ないと閉じ込めるよ」
「それは困るのぅ」
「ならさっさと出る!ていうかあんた部活は?」
「今日は休みじゃ」
なら、と振り返って仁王を見た。
「この後付き合ってくれない?今日家の鍵忘れて夜まで帰れないの」
「かまわんが…どこに行くんじゃ?」
「んー、王子様探し?なんてね。ほら、早く出て!ホントに閉じ込めるぞ」
と、図書室の鍵をちらつかせながら言った。
それを見た仁王は、少し笑ってから私の頭をポンポンと叩いた。なんか見下ろされてる気分。
「なによ?」
「少しはお前さんも素直になれないものかのぅ。その性格はいつからひねくれたのやら」
「あんたにだけは言われたくないね。あんたの方が十分ひねくれてるじゃない」
「プリッ」
「プリッじゃない!」
それからのことはもう忘れた。
今になって思えばあの頃はホントにひねくれてたと思う。…今もだけど。
それから1つわかった。
王子様は、本当にいるんだと…。
fin.