短編

□愛しい君へ
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彼から電話がかかってきたのは、私が氷帝を卒業して2年が過ぎた頃だった。

あまり鳴らない私の携帯が着信を告げたことに驚きつつも、表示された名前にもっと驚きながら通話ボタンを押した。
陽が沈みかけた通学路でのことだった。

「……もしもし」
「凜々子か?」

懐かしい声だった。
久しぶりに聞く声に胸が弾んでいるのが自分でもわかる。

「久しぶり。どうしたの?」
「いや、そろそろだと思ってな」

何がそろそろなのだろう。
気になりはしたけど、それよりも話したいことが次から次に溢れてきて、そんなことを聞いている暇などない。

「最近そっちはどう?元気にしてる?テニスは続けてるんでしょう?部活のみんなも元気?学校はどう?授業楽しい?それから……」
「おい、そんなに一辺に聞かれても答えられねぇだろ」

あきれたような声が聞こえてきた。
まだまだ話したいことはたくさんあるけど、ここは一度やめておこう。

「ごめん……」
「謝るなよ。……お前はどうなんだ?」
「私?……特に何も」

私は話すことなんてないのだ。
私が聞きたいのは彼の話しなのだから。

「そっちでもうまくやってんのか?」
「……どうだろう?」

2年間を振り返ってみても、とてもうまくいってるなんて言えるようなものではなかった。

「友達は面倒だし、先生もうるさいし、クラスに馴染めないし……そんなにうまくいってないかも」

かもと最後につけたのは私が素直じゃないからだ。
だって彼はすべて知っている上で私にこんなことを聞いているのだから。

「素直にうまくいってないって言えばいいだろ」

思わず苦笑が漏れた。
彼は2年前から変わっていない。
「ねぇ、最近なんか物足りないんだ」

こんなこと言ったら、また素直じゃないって言われるかな。

「素直に会いたいって言え」

ほら、やっぱり。

「……会いたい」
「来ればいいだろ、俺様のところに」

そう言った彼の声が愛しくて、つい、うんだなんて言ってしまうのだ。


(素直に言えばいいじゃない。来て欲しいって)
(……)


fin.
12/06/05

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