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あの事故以来、坂道に裏門坂で会うことはなかった
時間帯が違うのか、はたまた裏門坂は諦めたのか
直接聞くこともなく、彼女は彼のことを頭の片隅に置きつつも、忘れつつあった


「ちょっと、柊チャン。今から帰るつもりっショ?」

「お久しぶりです、巻島さん。そうですけれども、何か?」

「今、勝負中なんだわ。あいつらが上ってきてからの方が安全だと思うっショ」

「あいつら?」


彼女はクロスバイクを側に止めて、三年生が下を窺っているのに混ざって下を見た


「……坂道くんと誰?」

「知り合いっショ?」

「はい、少し」

「ロードの方は一年の今泉」


金城が説明してくれたので話しかけて良いのだと思った彼女は疑問に思ったことを口にした

「彼は経験者、ですよね?」

「ああ」

「幾ら素質のある坂道くんでもママチャリとロードバイクじゃ、根本的に違いがありすぎますよ」


彼らは結構競っている
坂道の粘りが凄いと評するべきか
しかし、勝負は当然今泉の方に軍配が上がる
坂道を心の中で応援していた彼女は少し落ちこんだ
思い直して、坂道がよくやっていたことを褒めようと彼に近づく


「お疲れさま。これ、スポドリ」

「柊先輩!」

「良い勝負だったね」


もし坂道がロードバイク乗りになったら、どんな素晴らしい上り方をするだろう
純粋に興味が湧いた
得意不得意はあるものの、誰一人として同じ選手はいない
ママチャリで坂をあそこまで上る坂道には才能がある気がした


「じゃあね」


彼女は彼らと入れ違いに鼻歌交じりに坂を下る
風が彼女の横を横切っていく
坂を上るのが好きだ
何よりも上った先に下るのが好きだ


「女?クロスバイクか」

「でも、珍しいね。しかも、行っちゃった」


裏門坂を下る女子生徒がいるなど、今泉には信じがたかった
この学校に来てから信じがたいことばかりが周囲で起こる


「ああ、柊さんね」

「お兄ちゃん、知ってるの?」

「割と近くの家のお嬢さんだよ。あれだ、幹も好きな柊良太選手の」

「柊良太の妹!?」


幹が騒いでいる
今泉も聞いたことがある名前だった
アマチュアではトップクラスの選手ではなかっただろうか
最近はよく雑誌にも載っている大会荒らしの選手
その選手が気になるわけではないが、彼女自身には坂道同様興味が湧いた
流れるような風を連れて下っていた彼女の後ろ姿が目に焼きついて離れなかった






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