夢小説置き場=冴島由紀2

□Happy Birthday!
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しとしとと、まるで霧雨みたいな雨が、朝から降り続いてる。
どうせ降るなら、いっそどしゃ降りのほうが気持ちいいのにな。
で、さっさと上がって、からっと晴れちゃえばいいんだ。
せっかくの誕生日だっていうのに、まったくもう。



待ち合わせに決めたスーパーの入り口で、
私は恨めし気に雨空を仰いでは、目の前を通り過ぎていく人たちを眺めていた。
小さい子を連れたお母さん、傘を差しながら杖をつくおじいさん、
サラリーマンのおじさんは、営業さんかな。
わ、霧雨だからって傘さしてないお兄さん、びしょびしょだぁ…



ふう。
ため息、一つ。



私の待ち人は、まだ来ない。
まだ、って言っても約束の時間まであと2、3分はあるから、遅刻ってわけじゃない。
寧ろ、うっかり20分も早く来すぎた私が…あ、でも、もうそろそろかな?
携帯で時間を確かめてから、彼が来るだろう方向を、ちらりと見る。



「…あ」



駐車場のほうから、黒い傘の柄を肩に乗せて、
気だるそうにこちらに向かって歩いてくる姿に、頬が緩む。
雨の日でも、晴れの日でも、変わらないんだね。その歩き方。
そう思うと何だか妙におかしくって、くすっと笑ってしまう。
無性に、傍に走り寄りたくなったけど、我慢、我慢。
由紀の喫煙タイム、邪魔したくないし。



「よう」

「ども」



声を掛けられて、軽く頭を下げると、
銜えてた煙草を、携帯灰皿に押し付けた。
お店に入るからなんだろうけど、
屋外でも、私の傍ではあんまり吸わない。



「…何だよ?」

「ん、何でもなーい」



傘をスーパーの傘袋に入れながら、
怪訝な表情(かお)して、こっちを見てる。
この件に関しては、二人でだいぶ話したんだけど、
未だに妥協案が見えないんだよねー…。
別に、目の前で吸ってても構わないって言ってるのに、
頑として、由紀は吸わない。



「どうせまた、煙草の事でも考えてたんだろ」

「う」



買い物カゴを手にとって、やっぱりな、って肩を竦めてる。
だ、だって、由紀が私のために我慢するの、ヤなんだもんっ!
って、あ、顔を逸らしてたら、生鮮食品売り場のほうに、さっさと行っちゃった。
ひどいなあ、もう、なんてぶつぶつ言いながら、
私は慌てて、由紀の後をついていく。



「ったく、何で自分の誕生日にケーキなんざ焼かなきゃいけねえんだよ?」

「あはは…まあ、おかげで二人きりの時間も、ちょっとできたんだし」



由紀は、まだ納得いかないみたいで、ぶつぶつ言ってる。
まあ、最初は二人で過ごす予定だったから、気持ちはわかるけど…
でも、聞けば毎年寮でバースデイパーティーやってたらしいし、
今年に限って、「お祭り」を梅さんが見逃すはず、ないよねえ。



「苺でいいよな?」

「あ、うん」



苺のパックを二つ掴んで、カゴに入れる。



「多くない?」



スポンジケーキだよね?
一パックで足りると思うんだけど…



「あとで足りなくなって困るより、いいだろーが」

「あ…そっか。また買いに来なくちゃいけないもんね」

「余って困るもんじゃないしな」



由紀の言葉にうんうん、と頷きながら、
苺ミルクにしても美味しいよね、って隣に並んだら、
それは、明日の朝にでも夏男に作って貰え、だって。
明日の朝、かあ。



「ね、由紀」

「ん?」

「泊まれ…ないの?」

「あー、まあ、な」



私の問いに、ため息交じりの声。
由紀も、残念なのかな。
泊まり…たいのかな。



「ねえ、由紀」

「ん?」



牛乳やバターの並んでる冷蔵ケースの前で立ち止まって、
生クリームを選んでる由紀の、袖を引いた。



どうした、と視線で訊いてくる由紀に対して、
こちらの視線はちょっと泳いでしまう。
う、でも訊きたい。訊いちゃえ。



「ゆ、由紀は、泊まりたい…の?」



ど、ど、どうしよう、今さらながら胸がドキドキしてきた。
由紀は、…あれ、何で天井仰いでるんだろう。



「泊まりたいかと言われりゃ、泊まりたい…が」

「う、うん」



な、なんだろ。



「いいのか?」

「な、何が?」



生クリームを1パック、掴んだ由紀は、
にやり、と艶っぽく笑うと、私の耳元に唇を寄せた。



「…夜這いに行くぞ?」



よっ、夜這っ、



「ったく、我慢してたってのによ…」



ばくばく煩い心臓に手を当てて落ち着かせてたら、
ため息みたいな声が聞こえて、また驚く。
我慢?由紀が?



「責任、取れよな?」



耳元で囁かれた声がくすぐったくて、思わず首を竦めたら、
頭に乗せられた手で、髪をくしゃり、と撫でられた。
そのまま、何事もなかったようにレジに向かっていく背中を見つめながら、
言われた言葉を頭の中で反芻する。


「…お泊り、だぁ」



頬はかあっ、て熱くなるし、胸はドキドキしっぱなし。
由紀の誕生日なのに、まるで、私がプレゼント貰ったみたい。
わ、由紀ったらもう、あんなとこ歩いてる。
慌てて背中を追い掛けて腕を絡めたら、



「ああ、歯ブラシとコップ、買って行かなきゃな」



そう呟いて、生活雑貨売り場へ向かおうとする由紀の袖を、
私は慌てて、引っ張った。



「寮に予備の、置いてあるよ?」

「毎回じゃ、勿体ねえだろ」

「毎回、って…」



毎回ってことは、一回や二回って頻度じゃないよね?
ってことは…うわ、もしかして、月イチとか、週イチとか…?
ど、どうしよう、すっごく、嬉しいんですけど。



「きっかけは、有効に使わねえとな?」



ぽん、と頭に手が乗せられて、
見上げたら、にやり、って笑ってる。
魔王のそれじゃなくて、
「オトコノヒト」の、笑顔。
反則…胸がきゅんきゅんしちゃうよ。



「これでプレゼント、二つだな」



二つ?
科学準備室であげた皮のシガレットケース以外に、
何かあったっけ?



「しっかり貰ったぜ?寮の宿泊券」



そう言って、白い歯ブラシと白いコップを選んで、カゴに放り込む。
あ、そっか、そういうことか。
でも、宿泊券って…由紀が泊まっていいかどうか、って梅さんが決めることだよね?
まあ、梅さんなら、急に泊まるって言っても、
「あら、構わないわよ〜」って許してくれそうだけど。



「ああ、券って言うより、定期券か」



期限は一年ってとこだな、って言葉に、はっとする。
ああそっか…私、来年の今頃は、寮を出てるんだよね。
父さんと母さんは、まだ帰ってこれそうにないから、たぶん、一人暮らし…かなあ。
ちょっと寂しくなって、由紀の腕をぎゅっと抱きしめる。



「ああ、そうだ」



何か思い出したような声に、
どうしたのかな、って顔を上げたら、



「俺、来年の3月頃に、引っ越すからな」

「は…い?」



唐突な言葉に、いまいち事態が飲み込めない。
え、引越し?由紀が?どうして?
しかも、来年の3月?



「今のアパートじゃ、二人で暮らすには手狭だろ」



え、二人…で、って。



「お前が一人暮らしなんてな、危なっかしくてさせられねえよ」



俺の胃に、穴が開いちまう…って、
いつもなら、ムカっとくる言葉も、何だか上の空で。



「で、返事は?」



言われて、はっと我に返った。
うわ、頬がかぁぁぁっ、って熱くなってきた。
今頃、頭が動き出した感じがする。
しかも、フル回転してる割りに、
ちゃんと動いてないみたい。



「だ…って、親にだって、なんて話せば…」



まだ、付き合ってることだって言えてないのに、
そんな、一緒に住むなんて、いくら来年の話だって言ったって。



「その辺のことはちゃんと考えてるから、心配すんな」



で、返事は?って、畳み掛けるように言われて、ぐっと言葉に詰まる。
そんな、返事なんて、急に言われたってっ、



「…そんなの、はい、って言うに決まってるじゃない」



そんな魅力的な誘いに、乗らないわけがないじゃない。
どうしよう、やっぱり私のほうがプレゼント、貰ってるよ。



「これで、三つだな」



え?



「誕生日のプレゼント、だ」



素っ気なく、それだけ言うと、
私の頭をわしゃわしゃ撫でて、レジのほうに行っちゃった。
由紀、照れてる…のかな。



初めての、お泊り(由紀が)と、来年の青写真。
どっちも夢みたいだけど、夢じゃないんだよ…ね?
由紀、もしかして三十歳になって、パワーアップしたのかも。
老け込む隙なんて、魔王にはないのかもしれないね。



これから一年、また宜しくお願いします。
生徒としても、恋人としても。



2010.04.22
★。、:*:。.:*:・'゜☆。.:*:★。、:*:。

もう、そういう関係になってますね、この口ぶりだと(まだ書いてないけど 笑)
長編を書く気力はまだ溜まってないので、初夜はまた今度〜(書き逃げ)

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