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□もらってばかりじゃないですよ
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3月24日
最後の日なのに、朝はかなり寝坊してしまって、急いで準備した鞄の中身は、財布と携帯とイヤホンと電子辞書だけ
という、学校に行くのか疑わしいものになってしまった。
最後の日だけれど、教室はいつも通りで、あんまり実感は沸かない。
このまま教室の場所が変わるだけ!
なんてことになればいいのに…。
そんな思いも、1時間目の大掃除、2時間目の式、3時間目の学年集会…と
区切られたひとつひとつの振り返りが終わる度、木野先生との別れが近付いているという現実を実感させられて
段々と薄れてきていた。

学年集会は予定より30分も早く終わったので、みんなは足早に教室へと戻った。
集会の反省会をしているのか、先生たちはまだ戻ってこない。
その間に、春奈さんが持ってきていたカメラと、鬼道さんの携帯で、クラス全員の集合写真を撮った。
そのあとはしばらく、お別れムード…というより、それこそ打ち上げみたいなムードで
ほぼ全員が自分の席に戻った頃には、とっくに30分経っていた。
やっとある程度静かになった教室に、土門先生と木野先生が入ってきた。
「春休みの過ごし方」とか、「みんなへのメッセージ」とか、そういう内容のプリントが配られて
この学年で最後の通知表が配られて…
もう、この場には一時間も居られないんだな…。
そう思いながら、プリントと通知表を鞄に入れているとき、私は大変なことに気付いた。

「(クリアファイル…家に忘れちゃった…!!!)」

だけど、木野先生に手紙を渡さないままなんて嫌だ!
そう思って、あのクリアファイル以外のどこにも、手紙を入れた覚えはないけど、鞄のいろんなところを探してみる。
それでも見つかるわけはなくて…。
焦りを通り越して、自分を責めることしか出来なくなった。
絶望に似たそれに対して、泣きそうになって
その顔を両手で包むようにして隠した。
「もしかして…忘れたのか?」
隣の席の豪炎寺くんが、先生たちに気付かれないように、小さな声で訊ねてきた。
小さく頷くと、豪炎寺くんは、メモ帳の1ページを破いたものをくれた。
口パクででも、「ありがとう」って言いたかっのに
逆に、口パクで「気付かれるなよ」と言われてしまい、そのあと豪炎寺くんはすぐに前を向いた。
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