inzm L

□君の力が強すぎたから
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遠い遠いあの場所を探して
縮めばいいのにと思いながら
厭味なほど晴れた空を眺めていた。


「吹雪くん」

探している場所の
探している人に似た声が僕を呼んだ。
車椅子をベッドまで押してきて、僕を座らせた。

「これから検査なんですか?」

返事は返ってこない。
だけど、僕の足に衝撃を与えないよう、ゆっくりと
車椅子は何処かに向けて押されていた。

普段は乗る機会のないエレベーターに乗せられ、オレンジ色に光る「R」の文字を見た。
少し期待してしまう僕を、扉が開く度に見える空は、嘲っているんだろうな。
無言のままのエレベーターは、ようやく僕たちを目的地に運んでくれた。
扉が開いて、屋上へのドアのノブが、回し、押されると
視界の大体上半分が、縮むどころか更に広がったような、空になった。
少しだけ車椅子がまた押されて

「しばらく話してみるといい」

とだけ言われて、放置された。
話すと言っても誰と?
その疑問が残ったまま…
さっき、期待していた自分を、やっぱり空は嘲ってたんだなと思った。

「吹雪」

ここで聞けるはずのない声を聞いた。
もう馬鹿にするのも大概にしてほしい。
そう思った直後に、遠くの方から声の主が来た。

縮まったんだ。

「豪炎寺…くん」
「…吹雪」

どうしてここに?
なんて聞かなかった。
理由なんて無くても、あんなに遠かった距離がこんなに近くなっただけで嬉しかったから。

「吹雪、足の調子はどうだ?」
「そろそろリハビリに入るって。だけど…本当に、あのときの怪我で綱海くんが無事でよかった…」
「気にするな。綱海も今、あっちで元気にしている。お前に“早く帰って来いよ”って伝言もしてるぐらいだからな 絶対離脱しないだろう。」
「ふふっ、綱海くんらしいね 絶対早く治さなきゃ…!」
………

そんな他愛のない会話が出来て
あまりにも嬉しくて涙が出た はずだったのに

こんなに近くに居るのに
また離れなきゃいけない

涙は、そう思って出たものでもあった。


「でもさ…豪炎寺くん…、僕の足、ちゃんと治るのかな」


治った頃にはFFIが終わっているかもしれないし
あってほしくはないけど
負けてしまっているかもしれない。

「どうして突然…」
「僕も……みんなとまた、サッカー…やりたいんだ」

時間しか解決してくれない
このどうしようもない現状を恨んだ。

「だけどもし…」
“この足でサッカーが出来なくなったら”

そう言おうとした口を
豪炎寺くんの唇が塞いでいた。
さっきまで視界の上半分が空だったのに
今は全部豪炎寺くんだ。
そんな嬉しい時間も長くは続かず、すぐに豪炎寺くんは僕から離れた。

「お前なら大丈夫だ。だから、“俺のために帰ってくる”って約束してくれ」

真剣なのに優しい眼差しが僕を見詰める。
豪炎寺くんがライオコット島に戻るのと一緒に、僕も戻れそうな気がした。
空がどれだけ僕を嘲っても
僕は君にまた会いに行くよ
そして、みんなも一緒にサッカーをして
優勝したい

「…ありがとう。豪炎寺くん、…僕、絶対 復帰するよ…!一人でも、頑張るから…!」
涙がぼろぼろこぼれ始めた。

「だから…だから、…約束が…守れたら……………」

「分かった。 待ってるからな」



眩しく照りつける太陽の下
僕たちは約束のキスをした。





___________
end
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