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□音村楽也、中学三年生。
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綱海と福岡に行ったのは、高校に入る前の春休みだった。
FFIが終わり、沖縄に帰ってきてから数ヵ月経った日
俺は高校から出た課題を手伝ってやるために、綱海の家に行っていた。
その日の綱海は、意味もなく忙しそうに動き回ってると思いきや、夏バテでもしたかのように畳に倒れ込んだり…
簡単に言えば、いつにも増して、落ち着きがなかった。
そんな状態で、時間は過ぎていった。
退屈なのかと思って、FFIの話を改めて聞こうとしたとき
畳にしばらく倒れ込んでいた綱海は、突然
「立向居に会いに行く!」
そう言って、財布と携帯だけ持ってサンダルのまま家を飛び出そうとした。
あのとき、着ていたシャツの首根っこを掴むことで止められてよかった…。

「綱海がそんなじゃ、みんながノリノリになれないだろ…」
畳に伏せたままの綱海に言ってみたけど、まるで聞く耳がなかった。けど
「そういえばあっちもそろそろ春休みだろうな」
と言ってみたら、綱海は顔だけこっちに向けて
「福岡っていくらあれば行けるんだ?」
…ただ立向居くんの話題にしようとしてただけだったのに…
そんなことを真顔で聞かれたからには、調べないわけにもいかなくて…。
「何日居るのか知らないけど、5万円ぐらいあれば、少なくとも1日ぐらいは大丈夫だと思うよ。ホテルに泊まったりしないならの話だけど」
そう言ったら、すぐに綱海は完全に畳から起き上がって
「音村…!俺、お年玉とっててよかった…!!!!」
と言って喜んだ。
だけど…
「飛行機代が往復で2万とちょっとで―」
この一言で、綱海の顔色が一気に変わった。
「エッ…音村今何て…」
「2万ちょっと…けどさっき―」
「違う!その前だその前ーっ!」
お年玉とってて…って言ったじゃないか
そう言おうとしてたけど、勿論遮られた。
「じゃあ、飛行機だ―」
「それだあああああっ!!!!!…………はぁ」
数分前…寧ろ数十秒前に復活したばかり ってところだったのに、またへなへなと倒れ込んだ。
「も…もしかして綱海、飛行機ダメだったり…?」
「あれだけは無理…」
即座に返された上に、綱海が何かを嫌う だなんて人参ぐらいしか見たことがなかったから、余程苦手なんだなと思った。
「よくイナズマジェットに乗れたな…」
土方の話によると、日本から10時間ぐらいは飛行機だったらしい…。
「…立向居パワー 隣だったんだぜ…着いてから吐いたけど…」
「いやそれ立向居くんパワーの効果出てないじゃん;;」
立向居くんを以てしてもダメだったとのことだ。
「何か別の行き方ねえのかよー…」
沖縄は離島だから、飛行機がダメだとなってしまって、船を探した。
「……船はないみたい」
その一言で綱海に究極の選択をさせてしまうと分かっていたから、結果を見たときはショックを受けた。
「マジ…か……よ…………あっ!!!」
綱海はそのとき、何かをひらめいたらしく、また復活した。
「音村!お前も行こうぜ!」
「はっ?!」
立向居くんに会いに行くのに完全に俺がアウェイになるじゃん!
そのときはそう思ったけど、今考えると、あのとき綱海が誘ってくれたのは、運命だったんだと思う。

「大海原のノリがあればいける気がすんだよ!」
そんな理屈も何もない理由で、一緒に行くことになった。
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