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□もらってばかりじゃないですよ
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3月22日
このクラスでの生活も、残すところあと2日となった。
そんな日の、授業と授業の間にある、10分の休憩時間。
守くんや綱海くん、リカさんに塔子さんを中心として、春休み中にやる打ち上げの予定の話で盛り上がっていた。
すぐに10分は経ってしまい、チャイムが鳴った少しあとに、担任の土門先生が教室に入ってきた。
みんなで礼をしたあと、土門先生は
「今日は手紙を書いてもらうぞ」
と言って、小さな便箋と封筒(花柄の、シンプルなもの)を全員に配り始めた。
「誰にだ?」 「何で?」
などの声がしばらく続いたけれど、土門先生が教卓に戻るとそれは止んだ。
そして、そのあとに土門先生の口から出た言葉に、クラス中がショックを受けた。

「木野先生は、来年度から違う学校へ異動するんだ」

木野先生は、このクラスの副担任で、私たちの英語の先生でもある。
おとなしめな性格の私にも、変わらない態度で接してくれたし
私が英語の勉強を頑張ってることを認めて、何度も褒めてくれた。
英語が苦手な木暮くんや、不動くんのことも、投げ出さずにいつも気にかけていた。
私がテスト中に、余った時間を使って、テストの問題用紙の裏に描いた絵を、他の先生は呆れたような目でちらりと見て通りすぎたけど
木野先生だけは、テストが終わってから
「冬花ちゃん、絵 上手なのね!」
そう言ってくれた。
お世辞にも仲のいい人や、気の許せる人が多いとは言えない私だけど
木野先生には、自分なりに心を開いていたつもりだった。
その証拠にしたくて、私は英語の課題を、木野先生のところまで持っていく係になった。
その係になってから、たとえ持っていくのが遅くなっても、木野先生は不満げな表情ひとつ見せずに
「ありがとう。…でも、次はもうちょっと早くお願いね!」
と、笑顔で言ってくれた。
そんな木野先生が、もう居なくなってしまう…。
まだ若くて、教諭ではないみたいだから、覚悟はしていた。
だけどやっぱり、変えてもらえるものなら変えて欲しい。
クラスのみんなからも人気があって
便箋二枚分書くはずの手紙だったのに、三枚目、四枚目に突入する人も沢山居た。

チャイムが鳴る5分前、土門先生が、少し話してから、最後に
「さっきの手紙は、あさって木野先生に渡すから、忘れるなよ」
と言って、丁度チャイムが鳴った。
私は手紙をしっかりとクリアファイルの中に入れた。
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