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□ある10月の帰り道
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空は赤黒くて、冷たく重たい空気が、覆うもののない顔全体に突き刺さる。
「何か、冬が近いなって思いますよね」
ぼんやりと空を見上げたまま、隣に居る温かそうなピンクのもふもふ頭に向けて言う。
「そうだなぁ…あー!!早く夏になんねーかなぁ!!」
「ふふっ 綱海さんらしいですね」
綱海さんは、沖縄にいた頃から、毎朝サーフィンをしに行くほど海が大好き。
そして、そんな海が一層輝く夏が大好き。
もう顔を出しつつある冬よりも、通りすぎていった夏を歓迎している。
そんな綱海さんの、素直な笑顔を見ていると
心臓のあたりが、ちょっと苦しくなって、ほっぺが熱くなってきた。

ふと、風が落ち葉を舞い上げた。
その冷たさはほっぺの熱まで、落ち葉と一緒に連れていった。
「何だか、寒くなってきましたね」
隣のピンク頭に言ってみる。
ピンク頭は、瞳の奥に夏空を映しながら、見上げた空の暗さを感じていた。
くしゃみをひとつすると
肩に温かくて、ほんの少しだけ重たい何かがのしかかってきた。
でも、それは何なのかすぐに分かった。
そして、その送り主からかけられた、体調を気遣う言葉で、さっき風に連れていかれた熱さがまた戻ってきた。
顔はまだ赤い。
隣に居る、長袖とはいえ、この寒い中
上着は、ワイシャツの下にTシャツを着ているだけであるそっちの体調のほうが心配だ。
もしも体調を崩してしまったら、明日は会えなくなってしまう。そんなの嫌だ。
こうやってつまらないことを話しながら帰る、いつもと変わらない道も、サッカーをしていないときに考えるあなたのことも、そして勿論サッカーも
あなたが居るから、楽しいんです!
言いたいことを言ってしまって、恥ずかしさで顔が赤いまま……むしろさっきより赤い気がする…////
「もー立向居お前かわいすぎっ!!」
我慢できねえええ! と言わんばかりに、綱海さんは俺を羽交い締m……違う違う、……ダキシメラレマシタ。…////
すごく恥ずかしいけど、大好きな綱海さんの笑顔が、こんなに近くにあって、綱海さんの温かさが服越しに伝わってきて…
ただそれだけなのかもしれないけど、すごく嬉しくて、ドキドキして、泣きたくなってしまう。
今の温かさが続きすぎて泣いてしまわないように、くるりと振り返って、少し高い位置にある唇まで、背伸びしてキスをした。
綱海さんも俺と同じぐらい顔を真っ赤にして、抱き締める力を緩めた。
…と思ったら、さっきより強い力で抱き締めてきた。
多分……俺が原因…?
すっかり寒さも飛んでいって、元から高いテンションが、もっと高くなったからか、綱海さんは
俺の大好きな笑顔に、ほっぺの赤さをプラスして
「バカは風邪引かねーんだぜ」
なんてことを言った。
綱海さんがバカなら俺は何なんですか…!;;
「綱海さんはバカなんかじゃないですっ!」
顔がまだ結構近い状態。
あんまり、普段強く言わないから、ちょっと驚かせてしまったかな…でも本当に綱海さんは風邪を引かないようなバカなんかじゃないし……と、ぐるぐる考えていると
「俺もお前も同じバカなんだぜ?」
と、綱海さんが突然言った。
頭の上に?マークが出てそうなぐらい、言ってる意味がよく分からなかった。
綱海さんが俺にバカって言ったことなんて今まで一度もなかったから。
でも、よく考えたら
確かに、俺も綱海さんも同じバカなんだ!
どういう意味かは、俺と綱海さんとの秘密です。




end

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