夢小説

□帝国ノ狐とスパイ
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 ここは雷門中サッカー部部室の裏。木々に囲まれ、巨大な校舎の陰となっているそこは薄暗く、不気味である。

 そんな所に一人の少年。健康的な肌に細身の長身。土門飛鳥だ。

 帝国学園のスパイである彼は、只今そのキャプテンである鬼道有人に報告の電話をしようとしていた。

 しかし、携帯を持つ手は一向に番号を押そうとしない。

 雷門に来て、彼は純粋にサッカーが楽しくなった。帝国にない熱さに土門は感化されたのだ。

 連絡しなければ。しかし、情報を伝えたら雷門の仲間を裏切る。

 そんな板挟みに苦しみながら、土門は携帯の画面を見つめていた。胸が鉛を流されているように重くなってきた。呼吸が重い。


「……悪い!」

「何をしている、土門飛鳥。指が震えているぞ」


 と背後からクスクスと笑う声が聞こえた。

 聞き覚えのある声に慌てて頭上を仰げば、部室の屋根から長い前髪を垂らした白い狐の面がこちらを見つめていた。

 帝国学園指定の制服に、表情を隠す白い狐の面。そんな人物、たった一人しかいない。


「京!」


 狐面の人物の名は東京。帝国学園サッカー部のマネージャーである。

 今ごろ帝国のグラウンドにいるはずのマネージャーが何故ここに?


「何だその怖いものを見るような目は? オレは幽霊でも、殺し屋でもない。まあ、話はゆっくり聞く。……トウッ!」


 京はそう淡々と言うと屋根から飛び降りた……はずもなく、数分後、普通に部室の陰からひょっこりと現れた。


「いや、『トウッ!』っていらないだろ!」

「格好付けたいけど一応骨折したくない。ちゃんと用務員さんに脚立は返してきた」

「脚立借りたのかよ?!」

「借りた。いくらオレでも脚立は持ち運んでない」

「当たり前だ!! つーか、さっきまでのシリアスどこ行った?」

「実家に帰った」

「黙れ!」


 思わず、帝国にいた時と同じように土門は怒鳴っていた。

 しかし、京はまっすぐ立てた人差し指を口元にあて、呆れたように、


「土門飛鳥……静かに出来ないのか? 目立つぞ」

「俺としては、その狐面の方が百倍目立つ気がする」

「これは影山に渡されたものだ。偵察や遠征試合、外出中は身に付けている約束だ」

「そーですか」


 すっかりペースを乱されてしまった。さっきまでシリアスやっていた自分が馬鹿らしくなってくる。

 すっかり気の抜けた土門は、その場に座り込んでいた。


「疲れたのか?」


 京は土門の前に立つ。


「お陰さまで」


 嫌味を呟けば、「そうか」と返ってくる。

「なぁ」目の前の制服のズボンを見つめ、土門は口を開いた。「まだ男の振り、してるのか?」
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