夢小説

□小さくなった不動さん
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 突然ですが、不動明王が小さくなりました。



 小さくなる、と言っても小人のようになるのではなく、二、三歳くらいの幼児の姿だ。


「部室に入ったら、部室のベンチでこれが寝ていた。……状況を説明しろ」


 小さくなった不動を抱き抱え、不機嫌そうに尋ねる東京に、「知らん」「知るか」「分からないッス」「寧ろこっちが知りたいよ」「ククク…」などとそれぞれ答える帝国メンバー。


「そうかそうか、みんな知らないかー……。今の状況と五条の笑い声に腹立ったから、後で殴らせろ万丈&寺門」


「「えっ」」といつものとばっちり宣言に反応する二人を無視し、京は話を進める。


「しかし、見ているかぎり昨日は普通の生活を送ってたハズ。風呂とかは知らないけど」

「そうだったな」

「ああ」


 と、不動と共に東家居候の佐久間&源田が口を揃える。


「なら、何が理由?」


「知らん」「知るか」「分からないッス」「寧ろこっちが知りたいよ」「ククク…」


「万丈&寺門、更にド根性バットの刑追加」

「「五条!!」」

「ククク…」


 まあ、悩んでも仕方ないと言う事で、結局普通に練習が始まった。

 ただ、いつもと違うのは小さくなった不動が、ベンチから練習を見守るマネージャー・京の膝の上に座っている事。

 これには、佐久間と源田が羨ましいような、そして嫉みを込めた視線を送るのだが、小さくなった不動には関係ない。

 これが普段の彼だったら、「何だぁ?羨ましいなら、テメェ等も小さくなってみろよ」とか挑発の言葉の一つや二つ投げ掛けるが、今の彼は、「うー?」と幼児独特の柔らかい呻き声を発しながら首を傾げていた。


「中身まで、幼児なの?」


 京は人差し指で不動の額を押す。


「つーか、フサフサだな髪。どうやったら、あんな鶏冠にすんのか……?」

「う〜」

「指、嫌か?」


 人差し指をどかそうと、小さな手でそれをつかんでいる姿は健気なものだった。

 さすがに彼女でも意地悪をやめ、お詫びに優しく撫でてあげる。


「ごめんね」

「…うん」

「おお! 素直! 可愛い!」


 このまま成長すればよかったのに、と喉まで出かかったが、さすがにそれは心の奥に閉まった。

 普段の悪魔のような彼でも、彼なりの不器用な思いやりと優しさを見せるのを彼女は知っている。


「まあ、真・帝国では本気で殺そうとしたけど……」


 物騒な言葉は、不動に通じない。不思議そうに、「んー?」と首を傾げている。


「そうか、覚えてないよなぁ。お前、佐久間と源田の前で、キスしたんだ」

「キシュ?」

「そう。深くな。すごい恥ずかしかった」

「う?」

「……わからないか」

「うん」



 ──まあ、子供にこんな事説明しても意味ないか…。



 初めて聞く単語に困った顔をしている不動に京は、「こうだよ」と柔らかい頬に軽く唇を押しつける。

 その直後、京は赤面した。



 ──自分は何をしているんだ? つーか、三歳くらいの幼児相手は犯罪になるのではないか? あっ、これはきっとアレだ。母性本能が働いたんだ、間違いない!





 ボンッ!





 近くで、妙な爆発音がしたと思えば、膝の上で煙が発生していた。正確に言うと、不動が煙に包まれていた。


「…………えっ?」


 状況が理解できず、しばらく固まっていると、膝にかなりの重みが加わる。そして、いきなり煙から手が出てきたと思ったら、京の両肩を強く掴み、彼女をベンチに押し倒す。

 背中への強い衝撃に思わず京は目を瞑り、「何…」と恐る恐る目蓋を開けば、


「ビックリしたよ。お前がここまで積極的だったなんてなぁ、」

「……」



 そこには──



「なぁ、京チャン?」


 挑発的な笑みを浮かべて、跨っている京を見下ろしている、不動明王であった。

 その挑発的な性格も、鶏の鶏冠のような髪型も、すっかり元通りになっている。


「あの…不動クン……その……降りていただけないでしょうか?」

「ヤダね」


 ハンッと鼻で笑いながら、不動は片手で京の両手を掴み、彼女の首筋を舐めあげる。

 ぞわりと、京は背筋が震えるのを感じた。「ヒイッ」と小さく悲鳴をあげる。

 その反応に満足したのか、不動は嬉しそうに口の端をつり上げ、


「誘ってきたのはそっちだろう?」

「……」

 先ほどの行為の所為で力が抜け、更に両手の自由まで奪われてしまい、京は「うぅ〜」と悔しそうに唸る事しかできなかった。


「悔しいか? ハハッ! ざまぁないねぇ、京!」


 不動は嘲笑いながら京のジャージの裾に、空いている片手を掛けた。


「クソッ!」


 ──さっきの可愛さはどこ行ったんだ! 少し癒された私がバカだった! 母性本能の馬鹿野郎!!



 しかし、神は彼女を見捨ててはいなかった。



 ここは、サッカー部のグラウンド。そして只今練習の真っ最中。

 もちろん、部員がいるわけで──





「不動ッ!」





 ──うるさそうに不動が振り向けば、佐久間が顔を真っ赤にして、皇帝ペンギン1号を構えていた。
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