天に日が出ずる頃

□壱 平和が一番
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からん、という音がした。

「あ…」

手首に残るじんわりとした痛みで我に返った少年は、慌てて地に落ちた木刀を拾おうとした。
が、そうする前に、別の木刀が喉元に突き付けられた。

「はい、お終い」

木刀を少年の喉元に突き付けた青年はそう呟いた。
すっきりと整った綺麗な顔立ちで、少し吊り気味の目にどこか鋭い光を宿した美青年。ぱっと見ではツンとした女性かと見間違えてしまいそうだ。
青年は後ろで纏めた長く真っ直ぐな黒髪を揺らしながら、木刀の切っ先を納め、少年の許に近寄る。

「大分良くなってきたな。手、痛くないか、久苑」
「それなら平気だけど…周桜さん、それほんと!?」

久苑と呼ばれた少年は、目を輝かせた。
額に巻かれた薄青色の鉢巻きが特徴的な、大人しく控えめな印象を与える少年である。

「良くなってきてるのは確か。でも、まだまだ無駄な動きも多いのも確か」
「う…」

厳しい意見に少し俯く久苑。
生憎、顔が隠れる程に彼の黒髪は長くないので、どんな表情なのかは誰の目にも見えた。

「…そんなにがっかりするな。これからまた少しずつ直していけばいい」

周桜は久苑の頭にそっと手を乗せながら言った。
久苑が顔を上げると、手はすぐに引っ込められた。

「うん、そうだね」

笑顔をこぼしながら久苑は頷いた。
それを見て周桜も口角を吊り上げた。

「そうそう、その意気。とは言っても、今朝はこれで終わりだけどな」
「え」
「足音、聞こえないか」
「え?」
「あーあ、バレちった」

そう言ってこちらに歩いてきたのは、少し癖のある焦げ茶の短い髪の、人懐っこい印象を与える青年。

「朝飯、できたぞ」
「遠威さん、それほんと!?」
「いや、嘘」
「え」
「じょーだん、じょーだん。ちゃんとできてるから。じゃなきゃ呼びになんて来ないっての」

遠威は、笑いながら久苑の肩に手を置いた。
久苑は苦笑いを遠威に向けながら言う。

「質(たち)、悪いなあ」
「だから冗談だって。悪かった」
「…朝飯、できてるなら、冷める前に行くべきじゃないのか?それと、変な物は入れてないな?」
「そうだな。…今日は、普通に作った」
「ならいいが…。お前、たまに思い付きで変な味付けするからな…。『入れた』なんて言ったら、猫拾って来るところだった」


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