天に日が出ずる頃
□序章
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「いいんですか」
青年に問う。
「…ええ。僕はいいんです。…でも」
そこで青年は一度言葉を切り、自分の胸に手を当てて、空を仰いだ。
「僕のせいで、これから僕と同じ魂を持って生まれる人に、こんな大荷物を背負わせるようにさせてしまった。…僕は…最低、だ…」
「でも、」
「…間違ってはいない、よね。僕のしたこと」
青年はこちらを向いて尋ねた。
その顔は今にも泣きそうだった。
「…はい。貴方がしたことは、間違ってなどいません。貴方のおかげで――この国は救われたんですから」
「…有り難う。でも、僕のしたことは、これから確実に僕の魂を持って生まれた人を苦しめる。これは事実だ」
「それは…」
否定したい。でもできない。
事実だから。
「…なら、死んで罪を償いますか?」
青年は驚いたような顔をした。
「だって、人間は罪を犯せば、すぐに死ぬことで罪を償おうとするじゃないですか」
「…確かに、そういう人間って多いよね。でも、僕が死んだ所で何もならない。次生まれて来る人に、この重荷を背負わせる期間が来るのを早めるだけだ。そんなことできない、…させられないよ」
「じゃあ、どうしますか、これから」
「…生きるさ。生きるしかないだろう?僕ができる限り、この重荷をしばらく背負うよ。この命が尽きるまで」
「そうですか…」
風が舞い上がる。
髪を揺らしていく。
「もし」
青年が胸をぎゅっと掴みながら、口を開く。
「またこれが暴れ出したら、またあんな風なことが起きたら。…その時は、頼んでもいいかい?」
「ええ。その時のために私達がいるんです。貴方が死んだ後も、この国を守るために」
「…有り難う。それが聞けて嬉しいよ。…頼んだよ」
「ええ、わかってますとも。だから、未練なんて残さないで下さい。厄介ですから」
「ふふっ、言うね。でも、君のそういう所、嫌いじゃないよ…」
「有り難うございます」
風が、また吹いた。
「この国って、こんなに綺麗だったんだね…気付かなかったよ…」
青年の呟きは風に消えていった。