兵鳳−つわものあげは−

□陸 都へ
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「確かに、そうだけど…。…もしかして、前の桜を見に行った時のこと、気にしてるの?」
「え?」
「あの時も、誘ったのは、わたしだったし…」

暗い顔になり、俯く光風。
未だに引きずってはいるようだった。
自分が誘ったりしなければ、彼が大怪我をする羽目にもならなかったのに、と。

「それは、…あの時も言っただろう?お前は悪くない。俺が勝手にやって勝手に怪我した。それだけだ、と」
「でも」
「納得できないなら、俺はお前が納得するまで何度でも言う。お前は悪くない、とな」
「…っ」

俊孝の言葉に、驚いたように光風は目を見開いた。
が、それもすぐに元に戻り、そっと呟くかのように言った。

「…ありがとう」

俊孝の耳にもちゃんと届いたようで、穏やかで優しい微笑みをこちらに向けた。

その微笑みに、光風の心臓が一瞬高鳴った。

「…やはり、行こう、かな」
「…え?」

今、何て。

「これで俺が何もなかったら、お前は納得してくれるかと、…思って」
「…いいの!?」

光風が驚いて顔をぐっと俊孝に近付けた。
それに軽く驚いて、俊孝は少し怯んだ。

「え、…ああ」
「嬉しい!楽しみにしてるわ」

光風が部屋を出ると、俊孝は食事を再開した。
食べ終わる頃に冷静になって、改めて考え直す。

「……俺は、何故あんなこと言ったんだ?」

光風と一緒に義経の許を訪れるだなんて。

自分の失言に改めて気付き、俊孝は頭を抱えた。

「あー…」

できれば、彼にはもう会いたくない。顔を合わせたくない。

「…あれ?」

そこまで考えたところで気付く。

――何故、会いたくないんだ?

顔を合わせれば、彼は平家の仇敵なのだから、仇討ちをすることも可能だ。寧ろ、また会う予定ができたのだから、これは絶好の機会だ。

なのに、何故…?
会いたくないと思うんだ?

「……」

色んな考えが浮かんではくるがどれも答えにはならない。
何故、なのだろう…?

足音がこちらに近付いて来て、部屋の外に人の気配を感じた。

「――入ってもよろしいでしょうか?」
「夕陽か。ああ、構わない」
「失礼します」

部屋に入ってきた夕陽は、畳まれた露草色の布を持っていた。

「おや、残さず召し上がって下さって、嬉しい限りです」
「…その手に持っているのは、何だ?」
「ああ、これですか?貴方の新しい直垂です」

そう言うと夕陽はそれを広げてみせた。


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