兵鳳−つわものあげは−
□伍 どうして
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そう告げると、俊孝は口角を吊り上げて、笑ってみせた。
「なら…いいんだけど…」
口ではそう言っているが、光風の目は、心配そうにこちらを見ていた。
それを無視するかのように、俊孝は話題を変える。
「さて、これからどうしようか」
「これから…?」
「ああ。道もわからなくなってしまったし、朝日ともはぐれてしまったし。どうしようか」
「…そうよね。朝日、大丈夫かしら…」
「まあ、あれはあれで大丈夫だと思うが」
「…ふぃっくしゅっ」
微かなくしゃみが聞こえた。
続いて斜面の方から、がさがさという草を掻き分ける音が近付いて来た。
「誰だっ」
無意識に光風を背後に庇い、俊孝はそちらに声を掛けた。
「…ぷはっ」
「お前…朝日か」
背の高い草と蔦の間から現れたのは、朝日だった。
「あ、無事でしたか、二人とも。…あー、良かったぁ。お元気そうで何よりです。心配したんですからね」
安心して力が抜けたらしく、朝日はその場に座り込んだ。
草か枝に引っかけたりでもしたのか、頬や腕にみみず腫れが幾筋かついていた。
「朝日、怪我してるわ」
「オレは平気です。このくらい、唾でも付けておけばすぐに治ります」
「…男の子って、皆そうやって言うものなのかしら」
「…え?」
「だって、延寿だって、そう言うのよ。自分は平気だ、って。わたしよりも怪我してるのは明らかなのに。頬のとこ見たって、ほら」
「え」
光風が指差した所――俊孝の頬には、落ちた時に付いたらしい真新しい擦り傷があった。
…道理でひりひりする訳だ。
言われるまで、気にも留めていなかった。
「延寿、他にも怪我しているんでしょう。この前のだって、まだちゃんと治った訳じゃないし」
「……」
じっ、とこちらを見てくる真っ直ぐな光風の視線から逃げるかのように、俊孝は目を逸らす。
「…大丈夫だから。もうその話はいい加減にしよう」
「何処が?ほんとに?とにかく、早く帰りましょう。ね?」
「…どうやって?」
「え」
そうだ。
こんな場所、来るのは初めてだったから、どう行けば帰ることができるかわからない…。
落ちて来た斜面は…登るには厳しいくらいの傾斜だ。
「…どうしよっか」
「…少し、歩き回ってみます?」
「…そうするか」
服の埃を払いながら、俊孝が立ち上がる。
続いて、光風と朝日も立ち上がった。
賛成という事らしい。
「じゃ、行ってみるか」