兵鳳−つわものあげは−

□肆 弥生の桜
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「痛い、やめろ!」
「なら早く教えて下さでっ!?」
「朝日、あんた何してるのっ!?」

朝日の頭に拳が叩き込まれた。
傷を押さえていた手が離れ、痛みが薄れる。

「全く、何してるかと思ったら」
「ね、姉さん…」

見れば夕陽がそこにいた。
朝日が殴られた頭を痛そうに押さえる。

「すみませんね、この愚弟が。ほら、朝日」
「…すみませんでした」
「ああ…」

…助かった。

「その様子だと、朝日の莫迦はまだ薬塗ってないんですね。私が塗りましょう」
「あ…ああ、頼む」

傷を覆う包帯を解く。
未だ痛々しく残る背中の二カ所の傷が顕(あら)わになる。

「まだ、完治しそうにはないですねぇ。…塗りますよ」
「ああ…。…い、いだだっ!」
「我慢して下さいませ。少しの辛抱ですので」
「それはわかって…い゙っ!!」
「一々悲鳴を上げるなんて、全く大人気な…ででっ」

一言余計な朝日の頬を、夕陽が黙れと言わんばかりにつねった。

「あんたはいつも一言多い。ごめんなさいね、延寿殿」
「あ…痛っ!」
「もう後は包帯巻き直すだけですから、痛いかもしれませんが、我慢して下さい」
「…わかった」

俊孝の包帯を巻き終えると、夕陽は朝日を引きずって部屋から出て行った。

程なくして、光風が部屋に顔を出した。

「延寿、調子どう?」
「ん…怪我の方は、まだちゃんと治りそうにないな。…痛い時は痛い」
「そう…。でも、顔色とかは一時期に比べたら、大分良くなったと思う」
「…そうか?」
「ええ」

光風は少し微笑みながら頷いた。

「けど、無理は禁物よ?治るものも治らなくなってしまうから」
「そうだな。…ところで、桜を見に行くというのは、明日、なんだよな?」
「ええ。晴れるといいわね!」

俊孝に笑顔を向けて言う。
可愛らしい、いじらしい、というような言葉が似合うような満面の笑顔。

釣られて、俊孝の頬も緩む。
それを見た光風が何かに気付いたように言う。

「あら、延寿って、笑うと凄くいい顔するのね」
「え?」
「あ、戻っちゃった。もっと見てたかったわ」
「な…」

俊孝の顔が赤く染まる。
それを隠すように俯いた。

「あら、わたし…変なこと言ったかしら?」
「…違う。…そうじゃ…ない。何て言うか…。…そういう風に言われるの、あまりなかった、から。何か…照れくさくて」


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