兵鳳−つわものあげは−

□参 零れ落つるは
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俊孝の熱が下がって、しばらくした頃。

「痛っ!お前、少しは優しく…いだだっ!!」
「黙りなさい。姫様ともあろうお方に、薬を塗らせるなどなんと恐れ多い。大人しくその報いを受けなさい」
「根に持つ奴だな!それにあれは光風の方から…いだっ!!」
「それだけ悲鳴あげられるなら、大丈夫でしょうね。それと呼び捨てはやめなさい。…チッ」
「お前、今した舌打ちはなんだ!?」
「細かいことに一々こだわるものではないですよ」
「…お前、治ったら一発殴らせろ」
「大人気ないですよ。こんな子供に向きになるなんて」
「っ…」

こんな子供に何も言い返せなくなるのが悔しい…。

傷に薬を塗る朝日を恨めしく見ながら、俊孝は思った。

どうもこいつとは気が合いそうにない。一言一言が気に障る。
どんな言葉を今まで聞かされて育ってきたのか、見てみたいものだな。

「包帯、巻きますよ」
「ああ。…痛っ!もっと緩くし…いだだだ!!」
「このくらい普通ですよ」
「普通より絶対きついんじゃないかこれは!?」
「我慢しなさい」
「お前、俺への嫌がらせも込めてやって…だから痛いって言ってるだろ!?」
「一々うるさいです。静かにして下さい」
「お前も一々一言多い。…いだだだ!!」

包帯を巻き終えて、朝日は一息ついた。

「ふう。こんなもんでしょう」
「あー痛かったー」
「あの程度であれ程の悲鳴あげるなんて大人気ない」
「お前も俺と同じくらいの怪我してみるか?」
「遠慮します」

恨めしげにこちらを見ながら尋ねる俊孝の言葉に、朝日はぴしゃりと返事をした。

「だって痛そうじゃないですか。オレ、痛みで喜ぶような趣味ありませんし」
「あったらあったでどうかと思う」

俊孝はのそのそと横になる。
あまり動くと傷に響くので、やはり安静にしていた方が都合が良いのだ。横になろうとする間も、傷に響いたことは響いたが。
まあ、そのうち痛み止めの薬も効いてくるだろう。
朝日に背を向けるように、横向きに寝そべる。

「俺は一眠りでもすることにする」
「さっき起きたばかりじゃないですか。まだ寝るんですか」
「あまり動くと傷に響くし、治りも遅くなるからな。安静にしているのが一番いい」
「そうですか。…そうそう」

朝日は、何かを思い出したように言う。

「都で、一ノ谷の合戦で討たれた平家の者の首が晒されているそうですよ」
「…!」

俊孝の心の臓が大きく高鳴った。
動揺しているのを必死に隠しながら、口を開く。


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