兵鳳−つわものあげは−

□弐 早咲きの邂逅
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桜の木との距離が縮まっていく。

「やっぱり近くで見ると更に…あら?」

木の向こう側に何かがあったような…。気の所為?
光風は、馬から下りて、それが何なのか確かめに、そちらを見に行った。

「…!!」

目を見開き、息を呑んだ。

そこにあったのは、…人の身体。

早咲きの桜が花びらを散らす中、人が一人、四肢を投げ出して仰向けに地面に倒れていた。
ぐったりとやつれた様子で、目は堅く閉じられている。

着物は、あちこちが破けてボロボロ。埃と赤黒い染みだらけ。
その着物から覗く素肌には、大小様々な傷がついていた。
腰には、そんなボロボロな彼に不釣り合いなくらいに綺麗な太刀。赤漆で塗られ、金箔が随所に貼られている。
髪は短く、髪の先は肩にも届かない。

ぱっと見たところ…男だろう。
自分と同い年か、それとも幾らか上か。

光風は我に返る。
慌てて彼の許に駆け寄った。

「ねぇ、大丈夫!?しっかりして!!」

鉄臭いにおいが鼻を突く。
結構大きい怪我もしているのかもしれない。

光風が呼び掛けているにも関わらず、目は閉じられたまま。体も全然力が入っていない。
口元に手を近付けると、微かな吐息を感じた。まだ息はある。死んではいない。

「姫様ー?…って、どうしたんですか!?何があったんですか!?」

追い付いた朝日が、彼を見て顔色を変えた。

「あっ、朝日!わからない、わたしが来た時には既に此処に…。…じゃなくて、お願い、この人をわたしの家に運ぶの手伝って!さすがにこれはほっとけないわ!!こんなに怪我してるんですもの!!」

確かに、こんな傷だらけな彼を、此処に何もしてやらないで放置して行くというのは、人として問題だ。
朝日は面食らいながらも応えた。

「わ、わかりました!それに今日は往診の日でしたよね?ちょうど薬師殿も来ますし、早く連れて帰るなら帰りましょう」
「ありがとう、朝日!夕陽、怒らないかしら…」
「さすがに姉さんもこれは怒りませんよ。寧ろ怒れません」
「そうよね。早くしましょう」

まだ息があるとはいえ、虫の息と言っても過言でない。
衰弱しているようだし、下手をすれば、本当に息を引き取ってしまうかもしれない。

そうなってしまう前にも、二人は彼を急いで家に運ぶことにした。

にしても。
彼は一体何者なのだろう…?
朝日は彼の風貌を見ながらそう思った。


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